要約
- ゼロサムゲームとは、ある一方の利益が他方の損失と正確に釣り合い、全体として純粋な利益も損失も生じない状況を指します。
- テクニカルには、株式や暗号資産（仮想通貨）市場自体はゼロサムゲームではありませんが、先物取引/契約取引のように、一方が勝てばもう一方が負ける取引の場合はゼロサムゲームとなります。
- 株式や暗号資産の現物取引はゼロサムゲームではなく、大多数の投機家（トレーダー）は自分の株式や仮想通貨を保有し続けることで成長の恩恵を受け、すべてを失うことはありません。
1987年の名作トレード映画「ウォール街」の中で、主人公が悪名高いトレーダー、ゲッコー氏に「どれほどの金額で十分だと思うか？いくつのヨットを水上スキーで引っ張るんだ？」と尋ねます。それに対して、ゲッコー氏は「満足かどうかの問題じゃない、友よ。これはゼロサムゲームなんだ。誰かが勝てば、誰かが負ける。お金は生み出されたり失われたりするものじゃなく、ただ人から人へ移動するだけなんだ」と答えます。
暗号資産（仮想通貨）や一般的な投機市場において、業界を懐疑的に見る批評家らは「ゼロサムゲーム」であると主張することがあります。ビットコイン(BTC)やアルトコインの取引は、人が他者を犠牲にして勝つゼロサムゲームなのでしょうか？その答えは「ノー（いいえ）」ですが、例外も存在します。ゼロサムゲームとは、誰かの勝利が他の誰かの損失と等価になるゲームです。ある哲学者は人生自体がゼロサムゲームだと主張しています。どれほど得ても、最終的にすべてを失う（死ぬ）からです。
以下では、ゼロサムゲームの仕組みと、どのような場合に仮想通貨取引がゼロサムゲームとなるのかを解説します。
ゼロサムゲームとは何か？
ゼロサムゲームとは、ある参加者が他の参加者の損失を代償に勝利を得るゲームのことです。分かりやすい例がポーカーです。誰かが勝てば、他の参加者が失う金額を獲得します。ポーカーでは、プレイヤー同士が直接競い合い、全体の勝ち額と負け額の合計がゼロになるため、「ゼロサムゲーム」と言えます。
「ゼロサム」という言葉は、勝者がいない状況には使えません。明確な勝者が存在せず、全員が損失を被る場合、それは「lose-lose（負け負け）」ゲームであり、ゼロサムゲームではありません。
ゼロサムゲームとウィンウィンゲームの違い
ゼロサムゲームの反対は、「ウィンウィン」もしくは「負け負け」ゲームです。例えば、2人が資産を売買する際、売り手Aはキャッシュアウトできて幸せ、買い手Bは将来リターンを見込んで購入するので嬉しい。どちらも損失を被らないため、ウィンウィンの関係です。強気（ブル）なトレーダーは、仮想通貨取引がウィンウィンゲームだと考えがちです。
このゼロサムの概念に基づき、現在の株式市場や仮想通貨市場が、投機家をゼロサムゲームへ誘導しているか分析することができます。
投資はゼロサムゲームか？
投資はゼロサムゲームではありません。機関投資家（または暗号資産における中央集権型取引所）が流動性や保有資産の大部分を掌握しているのは事実ですが、個人投資家（リテール投資家）もすべてを失わず利益を得ることができます。
株式や仮想通貨市場を疑う人々は、「上層部だけが利益を得て、私たちのようなリテール投資家はゼロサムで負ける」と主張しがちですが、実際にはそうではありません。
投資におけるゼロサムゲームの例
例えば、企業の創業者が資金調達のため株式を売却し、投資家がそれを購入します。創業者は工場設備を増やし、結果として企業価値が向上し株価も上昇します。これは利害が一致する「ウィンウィン」の関係で、市場の基本的な仕組みです。
簡単に言えば、誰かが売るときには必ず買う人が存在します。価格が暴落していても必ず買い手がいる一方、最高値を更新しているときでも必ず売り手がいます。売り手・買い手いずれも「すべてを失う」ケースにはなりません。つまり、取引自体は本質的にゼロサムゲームではありません。
仮想通貨はゼロサムゲームか？
仮想通貨市場は株式よりもはるかにボラティリティ（変動性）が高いため、数ヶ月過ごしただけでも「-99%下落」したコインを目撃したことがあるはずです。ビットコインの暴落で巨額の資産を失った／一夜にして億万長者になった、という話もよく聞きます。これにより「仮想通貨はゼロサムゲームなのか？」という疑問が湧きます。トレードスタイルによって答えが異なるため、それぞれ説明します。
ビットコインはゼロサムゲーム？
ビットコインを現物市場（スポットマーケット）で購入する場合、それはゼロサムゲームではありません。トレーダーが現物でビットコインを購入すれば、後から売却して損失の一部を回収することもできます。ビットコインは過去10年間で数百万％上昇しており、市場高値で購入した人も一時は含み損でしたが、のちに全額回収し高いリターンを得た例もあります。たとえば、2017年の$20,000の高値で買った人も3年間は含み損でしたが、その後の$69,000で3.5倍のリターンになりました。
ビットコインを売却することが、他の買い手に「全損」をもたらすわけではなく、理論上ゼロサムゲームにはなりません。取引は双方の合意によるもので、一方が完全に有利・不利になるケースは稀です。ビットコイン暴落時にパニック売りが起きても、最初に売った人がいったん得しても、その後底値で買って回復を待った人の方が最終的に大きな利益を上げることもあります。ここで重要なのはスキルとリスク許容度です。
先物取引はゼロサムゲームか？
先物取引は典型的なゼロサムゲームです。なぜなら先物には満期が存在し、誰かの利益は他者の損失となるからです。仮想通貨の先物取引では、証拠金を預けてレバレッジをかけ、取引額を増やしつつリスクも高めます。例えばPhemexのような取引所で、トレーダーはビットコインそのものではなく、現物価格に連動した「コントラクト（契約）」を取引します。
もしポジションが逆に動けば証拠金が徴収され、逆に有利なら初期投入額以上の利益を得られます。したがって、先物・オプション取引は満期があるためゼロサムゲームとみなされます。ただし、ストップロスを設定すれば損失を限定できるため、技術的には「すべてを失う」とは限りません。
レバレッジトークンはゼロサムゲームか？
レバレッジトークンは仮想通貨業界の新しい商品で、3倍・5倍などのレバレッジで「ロング（買い）」と「ショート（売り）」の両方向に投資可能です（ロング / ショート）。例えば$100を3倍レバレッジのトークンに投資すると、現物価格が10%上がるとポジションは30%上昇し、逆に下がると30%減少します。
レバレッジトークンには満期がなく、価格上昇・下落の双方で利益機会があるため、基本的にウィンウィンで「ゼロサムゲーム」には該当しません。ただし、そのリスクや価格変動幅は大きいため、長期保有には向かず、1日以上の保有は推奨されません。
仮想通貨が実際にゼロサムゲームとなるケース
通常の先物・オプション取引のように、決済日にどちらかが勝つ取引以外でも、「ラグプル（詐欺）」や市場の急落により仮想通貨がゼロサムゲームになることがあります。
仮想通貨におけるゼロサムゲームの例
例えば、ERC-20トークンはイーサリアム(ETH)上だけで30万種類以上もありますが、その中には意図的に詐欺（スキャム）を仕掛けるものも存在します。投資家をだまして購入させた後、DEX（分散型取引所）で流動性を抜き取るラグプルが代表例です。この場合、開発者がすべてを得て、投資家は全損となり、完全なゼロサム関係となります。
また、コインが暴落してゼロ（無価値）になった場合も、損失を回避できたのは高値で売り抜けた一部の人達のみです。たとえば、Terra(LUNA)暴落時に、コイン価値が$100から数セントへ下落した際、勝者は高値で売ったごくわずかな人のみで、売らなかった投資家は等しく全損を被りました。この場合もゼロサムゲームです。
まとめ
どのような取引スタイルかによって、仮想通貨取引はゼロサムゲームにもなり得ます。デリバティブ取引はゼロサムゲームであり、仮想通貨取引所における全体の約50%がデリバティブ取引であるため、仮想通貨のトレードはゼロサム的な側面を持つと言えます。一方で、レバレッジをかけず、価値あるプロジェクトを選び現物投資すれば基本的にウィンウィンで、どちらも「全損」にはなりません。
仮想通貨市場ではユーザーの損失リスクを減らすための様々な取り組みが進められています。多くの取引所では、「ストップロス」などの設定方法を説明するマニュアルを用意し、トレーダーが早期に利益確定・損切りできるようサポートしています。これにより、ポーカーのような「全損」を防ぐことができます。
仮想通貨は株式市場や伝統的なコモディティ市場よりもボラティリティ（価格変動）が大きいため、トレードには十分な注意が必要です。特に新規トークンをDEXで取引する場合、ビットコインやイーサリアムのような確立された資産への投資より全損リスクが高くなります。結論として、仮想通貨取引は本質的にはゼロサムゲームではありませんが、ケースごとに取引スタイルとリスクに応じた違いがあるのです。
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