分散型データベースは、多くの場合でブロックチェーン技術と結び付けられます。しかし、最初のブロックチェーンネットワークの登場の前から分散型台帳技術(DLT)として存在していました。
ブロックチェーン自体はDLTの一形態であり、最先端技術的の導入と共に常に進化し続けるのです。
分散型台帳技術(DLT)とは何か。
分散型台帳技術(DLT)は、ネットワーク上の複数のノードに分散し記録が保存・更新されるデータベースの一形態です。これらのノードは異なる地域、組織、またはデータセンターに分散した別々の物理的機械に配置されています。
ブロックチェーン技術とはDLTの一種です。つまり全てのブロックチェーンはDLTネットワークであるのに対し、全てのDLTシステムがブロックチェーンであるわけではないと言う事です。
DLTの主な特徴は以下の通りです:
- データベース台帳を複数のサイト/ノードに分散して保存。
- 各ネットワークノードが全体台帳の同一コピーを有する。
- 分散台帳の記録を更新するため、何らかのコンセンサスメカニズムを使用。
- ネットワークは中央集権型データベースソースを持たないP2P構造。
DLTとブロックチェーンの違いとは?
ブロックチェーンはDLTベースのネットワークであり、シンプルな一般的なDLTとはいくつか重要な違いがあります。DLTとブロックチェーンの主な違いは以下の通りです:
- ブロックチェーンは取引データを検証・保管するために暗号技術ベースのセキュリティを実装しています。DLTシステムの中には何らかの形で暗号技術を実装しているものもありますが、すべてのDLTプラットフォームがそうであるわけではありません。
- ブロックチェーンは取引データを暗号的に互いにリンクさせた記録チェーンで保管します。一般的なDLTシステムではこのようなチェーンベースの構造はありません。
- 少なくとも一般的に普及しているブロックチェーンでは、取引が有効であるためにはすべての検証ノードによるネットワーク全体のコンセンサスを得る必要があります。一般的なDLTネットワークではコンセンサスメカニズムはより限定的であったり、中央集権的に制御されています。
- 通常ブロックチェーンは取引を可能にし、記録を検証し、取引手数料を支払い、取引検証者に報酬を与え、分散型アプリ(DApp)サービスを可能にするために何らかのプラットフォーム全体で利用可能なトークンまたはコインを使用します。このようなトークン化は一般的なDLTシステムでは使用されていません。
ブロックチェーン技術はDLTをさらに進化させたものであるとも言えるでしょう。ブロックチェーンの開発者であるサトシ・ナカモトはDLTの基本的要素に暗号化や不変の記録チェーンといった重要な機能を加え、最初のブロックチェーンネットワークであるビットコイン(BTC)のコンセプトを考え出しました。
その後、 イーサリアム(ETH)、 トロン(TRX)、EOS(EOS)などの新しいブロックチェーンではスマートコントラクトへの対応機能が追加されました。このような機能は一般的なDLTシステムにはありません。
ブロックチェーン技術に通常含まれる多くの概念は時にDLT全般に帰属します。しかし、DLTは分散型データベース台帳に過ぎません。 ブロックマイニング、 暗号化、記録の不変性といった概念はブロックチェーン登場以前にはDLTシステムでほとんど使われていなかったのです。
出典: euromoney.com
DLTの主な構成要素とは?
DLTシステムの主な構成要素は以下の3つです:
- 分散型記録台帳。メインのデータベースと機能、また各ユーザーのコンピュータに同一のコピーを保存。
- ネットワークノード。様々なサイトに分散するDLTシステムのユーザー。
- データベース内の記録を更新するために使用されるコンセンサスメカニズム。コンセンサスメカニズムは必ずしもビットコインやイーサリアムのようなブロックチェーンで使用される分散型プラットフォーム全体のコンセンサスに基づくものではありません。1つの中央機関による取引検証のため、予め定められたメカニズムのようなシンプルなものでも可能です。
ブロックチェーンではないDLTシステムは中央集権型データベースの代替品としてよく利用されています。DLTシステムはブロックチェーンが持つ高度な機能の多くを備えていませんが、データを中央集権的に保存するシステムに対し利点があります。
DLTのメリットとデメリットは?
DLTは中央集権型データベースシステムと比較すると以下のようなメリットがあります:
- 低故障リスク。中央集権的に保管されたデータベース上のデータが失われたり破損したりした場合、システム全体が危険にさらされます。DLTシステムでは、例え1つまたは数個のノードがデータを失っても他のノードに常にコピーが保存されています。
- 中央集権型データベースは、常にデータ改ざんの恐れがあるのに対しDLTシステムはそのような操作は一段と難しくなります。データを不正に変更するためには悪意ある行為者は分散型台帳の各コピーにハッキングする必要があり、一定の規模を持ったDLTシステムでは非常に困難となります。
- より高い透明性。DLTシステムは例え1つの機関によって制御されている場合でも、記録の分散化によってより高い透明性とネットワークルールへの従順性が促されます。これはコンセンサスメカニズムの制御下にないネットワークノードも全記録を保有する台帳にアクセスする事が可能であるからです。
しかし、DLTはローカルデータベースストレージと比較するといくつかのデメリットが存在します。主なものは以下の通りです。:
- 取引スピードの遅さ。 中央集権型データベース上の取引はしっかりと構築された強力なデータベース上でほぼ瞬時に処理され台帳に記録されます。DLTネットワークではトランザクションを各コピー/ノードに送信し更新する必要があります。このため、パフォーマンス面で不利に働き運用速度が比較的遅くなります。
- 拡張性の低さ。中央集権型データベースシステムは、非常に迅速かつ効果的に拡張が可能です。複雑なDLTネットワークの拡張ははるかに困難な作業となります。
- プログラミングや技術的なメンテナンスの複雑性。DLTシステムは分散型という性質上、プログラミングや技術的な面でより複雑なものとなります。
- ビジネス界での適用性の低さ。ほとんどのビジネスではプライバシーや管理力のためデータを中央集権的に保管することを好みます。ブロックチェーンを含むDLTシステムが、中央集権型データベースシステムと比較するとビジネス界での使用例が低いのはこのためです。
出典: 中央集権型台帳 vs 分散型台帳
ブロックチェーン以外のDLTの種類は?
DLTの種類としてはブロックチェーンが最も有名ですが他にもDLTを利用したシステムはいくつも存在します。代表的なものでは有向非巡回グラフ(DAG)、ハッシュグラフ、ホロチェーンなどが挙げられます。
有向非巡回グラフ(DAG)
有向非巡回グラフはブロックチェーンのように連続したブロックではなく、データブロックがフローチャート状に連結されたDLTネットワークです。下の画像はDAGネットワークとブロックチェーンネットワークのデータ構造の主な違いを示しています。
ブロックチェーンとDAGネットワークのデータ構造(出典:CBCAmerica.org)
ブロックチェーンでは各データブロックは1つ前のブロックにリンクされている必要があります。DAGシステムでは各取引が検証され台帳に記録されるには、2つ前の取引を参照し承認する必要があります。この二重の検証により、取引件数が増えると上の画像のような複雑な取引フローチャートが展開されるようになります。
ハッシュグラフ
ハッシュグラフはDLTシステムの一形態で搭載されている投票メカニズムによって取引の優先順位が決定されるものです。取引などのネットワークイベントに関するメッセージがノード同士で送り合われます。
情報がノード間で拡散されるとネットワークはより「人気のある」イベント、すなわち、より多くのノードによって送信されたものを特定します。そして特定された人気イベントが取引順序でより高い優先度を獲得する仕組みです。
ハッシュグラフ技術は、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)ブロックチェーンに代わる高速な技術として開発されました。ハッシュグラフシステムは何千ものトランザクションを毎秒処理することが可能です。
ホロチェーン
ホロチェーンは各ノードが個々のチェーンを実行するDLTネットワークです。これはすべてのネットワークノードが1つの大きなチェーン上で動作するブロックチェーンと根本的に異なります。個々のチェーンが複雑に絡み合うホロチェーンは、DLTの中でも最も分散化されていると言えるでしょう。
個々のチェーンで承認が必要な取引データは分散ハッシュテーブル(DHT)技術に基づくコンセンサスメカニズムによって検証されます。DHTシステムでは個々のチェーンが分散テーブルに取引データをアップします。そしてそれぞれの取引データは真正性の評価、検証、更新を行うためすべての個々のネットワークチェーンに送信されます。
まとめ
DLTは中央集権型データベースに代わる一般的ネットワークの設計コンセプトです。DLTの原理はブロックチェーン技術、DAG、ハッシュグラフ、ホロチェーンシステムなどの設計に幅広く用いられています。
DLTネットワークは中央集権型データベースシステムと比較するとデータの損失や破損に対して防御性が高く、高い透明性を持ち、データが改ざんされる可能性が低いという特長を有します。しかし、多くの企業は中央集権型データベースが提供する管理力、プライバシー、取引の効率性を依然として好む傾向にあります。それでもブロックチェーンやその他のDLTシステムの発展により、DLTはこれらの要因の多くに対応できる可能性を秘めています。
プライバシーと管理、プライベートまたは許可制のブロックチェーンという点においてはすでに実用可能な対応策が提供されています。
取引速度の面においてはプルーフ・オブ・ステーク(PoS)に加え、DAG、ハッシュグラフ、ホロチェーンに基づく一部のブロックチェーンではすでに数千件のトランザクション毎秒数を達成しています。このような能率からDLTシステムは今後ビジネス界でもさらに導入されるようになるかもしれません。