
アミテージ・ガッジャラ氏は、イーサリアムのリキッドリステーキングプロトコルであるKelpDAOの共同創設者です。2026年4月18日、KelpDAOのrsETH(116,500枚、約2億9200万ドル相当)が、北朝鮮のLazarus Groupに関連するとされる攻撃者によって、LayerZeroブリッジ構成の1-of-1検証者設定を突かれ流出しました。ハッキングから5週間後、Aave主導の7つのプロトコルが連携した「DeFi United」連合の支援により、rsETHの裏付けは1:1の水準まで完全に回復しました。ガッジャラ氏は2021年にStader Labsをマルチチェーンのリキッドステーキングプラットフォームとして共同設立し、その後2023年末にEigenLayer上でKelpを立ち上げています。彼の名は2026年最大のDeFi流出と、業界随一の迅速なクロスプロトコル復旧の両方に深く結び付けられることとなりました。
このプロフィールが注目される理由は、KelpDAOの評判やガッジャラ氏の創設者としての評価が、今まさに変化しているためです。ハッキング前のKelpDAOのTVL(総預かり資産額)は約17億ドルに達していました。現在の課題は単なるブリッジ再構築ではなく、ユーザー信頼の回復、大手LRTプロトコルによる復旧プレイブックの模倣、そして独自DVN構成を採用した創設者が引き続きプロトコルの運営をコントロールできるかという点に移っています。
IITマドラスからStader Labsへ
ガッジャラ氏の経歴は、典型的なインド発フィンテック起業家のものです。2009年にIITマドラスで電気電子工学学士を取得し、2014年にはIIMカルカッタでMBAを修了。ZS AssociatesやA.T.カーニーでのコンサルを経て、スタートアップZaprやオンデマンド大手SwiggyのアシスタントVPも歴任。技術力とコンサル経験、急成長企業での実務を経て独自事業へと進んでいます。
2021年4月、シダルサ・ドディパリ氏とディーラジ・ボーラ氏とともにStader Labsを共同設立。Staderは、ETHステーキングがロックされていた時期に、Polygon、BNB、Hedera、Terra、Solanaのバリデーターがユーザーフレンドリーな前面を必要としていたことに着目したマルチチェーンLSTプロジェクトです。Pantera、Coinbase Ventures、Jumpから資金調達を受け、LidoやRocket Pool以外で認知度の高い発行体となりました。その後、EigenLayerによるリステーキングの発展に合わせて、イーサリアム中心にピボットしています。
ガッジャラ氏の特徴は、暗号化技術者というよりは、綿密なオペレーターである点です。スマートコントラクトやLayerZeroの検証モデル設計には直接関与していませんが、小売層が求める利回り原資を選出し、洗練された製品をすばやく市場に展開する能力が強みです。現在、そのスキルが試されています。
KelpDAO設立とLRTの使命
KelpDAOは2023年末にローンチ。EigenLayerがリステーキングを解放した直後で、リキッドリステーキングトークン(LRT)が次世代のETHステーキング手法になるとの見立てに基づきました。仕組みはシンプルで、ETHを預けてEigenLayerでリステークし、新たに得られる「rsETH」トークンによりDeFiで運用しつつ、元本ステーキングとリステーキングポイントの両方を獲得できます。リステーキングの仕組みについてはAcademy記事で詳しく説明しています。
ガッジャラ氏は、Kelpを「StaderのノウハウとEigenLayer経済圏の橋渡し」と位置付けてきました。LST発行、チェーン間配布、大規模バリデーター運用の実績を生かし、EtherFi、Renzo、Puffer、Kelpらがシェア争いする中でLRT分野に参入。2026年初頭にはTVLで最大級のLRTとなり、rsETHはAave、Compoundなど主要レンディングプラットフォームで担保資産としても組み込まれました。
この指針が功を奏した一方で、ハッキングの影響も甚大でした。Unichain上で116,500枚の偽rsETHが発行され、Aaveで1億9000万ドルの借り入れ担保として使われたことで、Kelp単独の被害にとどまらずAaveの不良債権リスクやrsETH全二次市場の価格、LRT全体の信頼性にも波及しました。LRTが成功すればするほど、その失敗時の影響も大きくなります。
2026年4月18日の技術的なハッキング概要
Solidityのバグではありません。Kelpのコントラクトは正常で、攻撃対象はLayerZeroのオフチェーン検証インフラ、特にKelpが採用したrsETH向けクロスチェーンブリッジの設定でした。
rsETHは「1-of-1」DVN(分散型検証ネットワーク)設定で、単一の検証者(LayerZero Labs自身)の承認のみでクロスチェーン転送が実行される仕組みでした。Chainalysisの報告によれば、攻撃者はDVNにデータを渡す内部RPCノードを侵害し、外部RPCのバックアップにもDDoS攻撃を仕掛け、結果的に検証者は改ざんされたデータに依存せざるを得なくなりました。DVNが「存在しないrsETHバーン」を承認したことで、Unichain上で裏付けのない116,500 rsETHが発行され、Aaveの担保に利用されたのです。CoinDeskの調査では、この攻撃を北朝鮮のTraderTraitor(UNC4899)によるものとしています。
責任の所在は議論を呼びました。LayerZeroはKelpの1-of-1設定を批判し、Kelp側はそのようなデフォルト設定を許したLayerZeroと、検証者運用をすべてLayerZeroが担った点を指摘。5月9日、LayerZeroは「高額資産への1-of-1設定許容はミスだった」と認め、今後は5-of-5(最低でも3-of-3)の設定へ移行することを約束しました。DeFi業界としては、「分散型」検証ネットワークもクォーラム数が小さいと中央集権的なオラクルと変わらないリスクを再認識する教訓となりました。
ハッキング後のリーダーシップとDeFi United連合
ガッジャラ氏はハッキング発覚後72時間、SNS等での積極的な発信は控えました。X(旧Twitter)での謝罪投稿や公開スペースもありませんでしたが、その裏で重要な調整が進みました。
迅速かつ信頼できた対策が「DeFi United連合」です。被害発生から5日以内にAave側のサービスプロバイダーとKelpチームが調整し、Aave預金者に損失を転嫁しない形でrsETH補填を目指す7プロトコル横断の救済基金を組成。Lidoが2,500 stETH、EtherFiが5,000 ETH、LayerZeroが10,000 ETH、EthenaとMantleも協力し、Aave創設者Stani Kulechov氏個人も5,000 ETHを拠出。数週間で10万ETH超が集まりました。4月24日時点で約69,534 ETH(約1億6100万ドル)、その後も増加が続きました。
| DeFi United拠出元 | 拠出額 |
|---|---|
| Lido | 2,500 stETH |
| EtherFi | 5,000 ETH |
| LayerZero | 10,000 ETH |
| Mantle | 連合基金へ共同拠出 |
| Ethena | 連合基金へ共同拠出 |
| Stani Kulechov(個人) | 5,000 ETH |
| 連合合計 | 100,000+ ETH |
ガッジャラ氏が「評価に値する」とみなされるのはこの回復の計算です。最終的に裏付けのないrsETHは112,103枚でしたが、そのうち約106,993枚はAaveやCompoundでの清算で回収。残り約5,200枚は連合基金等で補填し、Kelpが5月22日にLayerZeroのロックコントラクトへ20,373枚のrsETHを追加供給しました。Cointelegraphも5週間でrsETH裏付け100%復旧を確認しています。ガッジャラ氏が個人的に救済したのではなく、損失の社会化に走らずAave預金者や他プロトコルとの関係を維持した点が評価されています。
KelpDAOの現状と今後の展望
5月中旬にはEthereum、Arbitrum、Base、Linea、Mantle各チェーンでrsETH出金が再開。Aaveも5月18日にWETH借入上限を回復し、オペレーションは正常化しています。ただし信頼回復は容易ではありません。ハッキング前のKelpDAOのTVLは約17億ドルでしたが、DefiLlamaによれば本件後48時間でDeFi全体で約130億ドル、Aaveだけでも60億ドル超の預金が流出しました。rsETH裏付けは回復したものの、ユーザーが即座に戻るわけではなく、バリデーターや監査法人など第三者による新ブリッジ構成の再認証や、数ヶ月無事故運用が示されることで、ようやく信頼が徐々に戻ると考えられます。
今後の注目点は以下の3点です。第一に、KelpがマルチDVN検証構成をどこまで徹底し新アーキテクチャを公開するか。5-of-5や3-of-3未満では依然として単一点故障リスクが残るため、明示的なコミットが重要です。第二に、他LRTプロトコルがDeFi Unitedの復旧モデルを将来の事故時に採用するかどうか。この事例が標準となる可能性があります。第三に、ガッジャラ氏自身の今後の役割であり、セキュリティやインフラ分野に強い経営者へのバトンタッチも含めて、リーダーシップ構造の見直しが注目されます。
今後は「何も起きないこと」がKelpDAOの信頼維持の鍵です。再発防止、セキュリティ投資の維持、residual lossの社会化回避——これらを2026年後半も守り抜けるかが評価軸となります。これに成功すれば、ガッジャラ氏は「大規模ハックからの回復を実現した創設者」として評価されるでしょう。失敗すれば、LRTによるシステミックリスク集中のケーススタディとなります。
よくある質問
アミテージ・ガッジャラ氏とは?KelpDAOでの役割は?
KelpDAOの共同創設者でrsETHトークンを発行するEthereumリキッドリステーキングプロトコルを運営。2021年にはStader Labsを共同設立。IITマドラス工学士、IIMカルカッタMBA取得。ZS AssociatesやA.T.カーニーでのコンサル経験もありますが、専門はプロダクトや成長戦略です。
KelpDAO流出はガッジャラ氏個人の責任?
直接の責任ではありません。LayerZeroの1-of-1 DVN設定が狙われ、同社自身もデフォルト提供は誤りと認めています。ただし、Kelpの運営責任者として最終的な判断責任は担っています。
rsETHは今後安全か?
2026年5月末に裏付け100%が回復し、EthereumやArbitrum、Base、Linea、Mantleで出金も再開しています。ただし、オンチェーン健全性だけでなく、今後数四半期の無事故運用が信頼回復のカギです。
DeFi Unitedはなぜ重要だったか?
1プロトコルの事故がレンディング市場全体の不良債権化につながるのを防ぎ、AaveやLido、EtherFi、LayerZero、Ethena、Mantle等7プロトコル横断で10万ETH超を集め補填。今後の復旧テンプレートとなる可能性があります。
まとめ
ガッジャラ氏は派手な謝罪ではなく、事後の信頼回復と実務に注力した点が評価されています。復旧計算は理論上は正確ですが、最終的な信頼は運用実績次第です。2026年後半は以下3点が注目点です。第一に新ブリッジアーキテクチャとDVNクォーラムの公表。3-of-3未満ではリスクが残ります。第二に新規rsETHデポジットがハッキング前水準の半分まで戻るか。これはユーザー信頼回復の明確なシグナルです。第三に経営陣の構造改革。セキュリティ重視のオペレーター登用で本気度が問われます。2026年最大のDeFi流出は技術的には解決しましたが、KelpDAOがトップLRTに返り咲くかは創設者の手腕にかかっています。
本記事は情報提供のみを目的としており、金融・投資助言ではありません。暗号資産取引にはリスクがあります。ご利用の際は十分にご自身でご判断ください。
