暗号通貨市場において、良くも悪くも短期的には「ナラティブ」が重要な役割を果たします。2013年のサイクル以降、「より高速なビットコイン」「ICO」「DeFi」「GameFi」など、多くのナラティブが登場しました。一部のナラティブは業界全体の中で独自の成長するニッチ市場として発展を続けましたが、他は次第に忘れ去られていきました。
最近注目を集めているものの、まだ主流には至っていない新しいナラティブの1つが**DePIN（分散型物理インフラストラクチャ）**です。これは、ブロックチェーン技術を活用して現実世界の施設やリソースを管理する仕組みを指します。例えば、計算リソースのマーケットプレイスや現実世界のデータへのアクセスを提供するプラットフォームなどが該当します。
DePINは、これらの重要なリソースを管理する従来のプラットフォームに比べて、透明性と効率性を向上させることを目指しています。また、暗号通貨全体に対する批判の1つである「現実世界での広範な応用の欠如」を克服する可能性を秘めています。2025年以降、DePINが私たちの日常生活に与える影響をより詳しく検討する価値があるでしょう。
DePINの利点と欠点
現在、データネットワーク、交通システム、電力網などの物理的インフラは、通常、中央集権型の企業や政府によって所有および運営されています。DePINはこの現状を変革し、ピアツーピア（P2P）ネットワークを構築することで、個人が自身の物理的リソース（例えば、帯域幅、ストレージ、エネルギーなど）を提供し、ネットワークの管理を共同で分担する仕組みを実現します。
DePINのビジョンが提供する主な利点には以下が含まれます：
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コミュニティによる管理(Community Control) - DePINは、管理権限を従来の機関から個人の集合体へと移行させます。参加者は自身のリソースを提供してネットワークを構築・維持し、Proof-of-Work（PoW）ネットワークでマイナーがトランザクションを検証するのと同様に、管理権を共有します。DePINは、各参加者の影響力がその貢献度に比例する、産業型DAO（分散型自律組織）のように機能します。
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インセンティブの整合(Aligned Incentives) - DePINネットワーク内では、リソース提供者が受動的または能動的な収益を得る機会があります。これにより、参加者は未活用のリソースを収益化し、新たな収入源を作り出すことが可能になります。この仕組みは、誠実な参加を促すとともに、リソースの効率的な利用を最大化するインセンティブを提供します。
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許可不要のアクセス(Permissionless Access) - 誰でもネットワークにリソースを提供することができ、提供されるサービスに自由にアクセスできます。価格交渉やユーザー審査、承認プロセスは必要ありません。必要なインフラを持っている限り、誰でもDePIN上でプロバイダーアカウントを作成することができます。これは、誰もがDEX上で流動性プールを展開したり、分散型金融市場でローンを利用したりできる仕組みに似ています。
これらの主な利点が示すように、DePINは本質的に管理権を人々に取り戻させる仕組みです。過去には効率性を高めるために中央集権化が必要とされましたが、現在ではブロックチェーン技術により、インターネットを利用できる誰もが偏りなく貢献し、収益を得られるようになっています。
とはいえ、この分野には特に採用面で課題も存在します。ネットワーク効果に関する知識がある人なら、ネットワークは参加者が増えるにつれて指数関数的な成長を遂げる可能性があることを知っているでしょう。しかし、最も困難なのは初期の採用者を集めることです。
現在、DePINは主にブロックチェーン愛好家の間で語られるナラティブとして存在しており、既存のプラットフォームは規模が小さく、ネットワーク効果や規模の経済の恩恵を十分に受けていません。論理やインセンティブがいかにしっかりしていても、リソース提供者やネットワーク参加者の数が大幅に増加しなければ、そのネットワークは失敗する運命にあります。
2025年に向けた注目のDePINプロジェクト
The Graph: The Graphは、ブロックチェーンデータを構造化された形式に整理する分散型インデックスプロトコルであり、ユーザーや分散型アプリケーション（DApps）がそのデータを迅速に取得できるようにします。インデックス作成は、現代のウェブにおいて不可欠であり、今日のインターネット体験を支える高速なデータ取得を可能にしています。
従来のWeb2領域では、Amazon Web Services（AWS）のような企業がインデックス作成、クラウドストレージ、その他の重要なサービスを世界中の数百万のユーザーに提供しています。しかし、多くの分散型アプリケーション（DApps）は、ウェブホスティングやストレージ、データのインデックス作成において、依然としてAWSのような中央集権的なプロバイダーに依存しており、中央集権型インフラへの依存を生み出しています。
The Graphプロトコルは、このプロセスを分散化し、ブロックチェーンデータのインデックス作成のためのオープンマーケットを構築することを目指しています。参加者は、サブグラフと呼ばれる専門的なデータセットを通じて、ブロックチェーンデータをキュレーション、インデックス化、取引することができます。これらのサブグラフは、DAppsやユーザーが利用できる形で提供されます。このデータマーケットプレイスは、エコシステムのネイティブユーティリティトークンであるGRT（Graph Token）を使用して運営されています。
Akash Network :Akash Networkは、Microsoft AzureやGoogle Cloudのようなクラウドプロバイダーに対するWeb3の解決策です。従来のクラウドサービスは、ウェブサイト、アプリケーション、分析、ネットワーキングツールを実行するための計算リソースを提供するグローバルなサーバーネットワークを管理しています。一方で、Akashは中央集権型サーバーに依存せず、分散型モデルを採用することで同様のサービスを提供することを目指しています。
個人のサーバーやデータセンター、または未使用の計算リソースを持つユーザーがリソースプロバイダーとして参加できるオンチェーンマーケットプレイスを構築しています。これらのプロバイダーはオンチェーンでサービスをリスト化し、契約を獲得するために入札を行います。一方で、計算リソースを利用するテナント（ユーザー）は、これらの入札内容を確認し、最適なオプションを選択することができます。
Render Network: Render Networkは、ネットワーク参加者のアイドル状態のGPUパワーを利用して、3DレンダリングやAI計算タスクを処理する分散型コンピュートプロトコルです。このネットワークは、GPUパワーのマーケットプレイスを構築しており、余剰GPUを持つプロバイダーがそれを貸し出し、ネットワークのネイティブ通貨であるRENDERと引き換えに報酬を得る仕組みを提供しています。
当初はPolygonネットワーク上で構築されていましたが、Render Networkは2023年11月にSolanaブロックチェーンへ移行しました。この移行は、Solanaの低いガス料金と高い処理能力により、より高速でコスト効率の高いトランザクションやレンダリングプロセスを可能にすることを目的としたものです。この決断は成功したようで、Render Networkのトークン価値は過去1年間で約80%上昇し、現在の時価総額は約40億ドルに達しています。
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