2017年に発表されたTelcoin(TEL)は、すべてのモバイルユーザーがいつでも国際取引を行えるようにすることを目的に開発されたEthereum(イーサリアム)ベースのトークンです。Telcoinは1トークンあたり0.025ドルで取引されており、流通供給量は540億トークン、時価総額は13億ドルとなっています。
Telcoinとは
TelcoinはWestern Unionなどの大手銀行が独占している送金市場を戦略的に重視しています。国際送金においては、取引時間の長さ、高額な手数料、遅延の頻発などが長らく課題とされてきました。そのような中、TelcoinはGCashを始めとする通信会社各社と提携することで、従来よりも高速かつ低コストのデジタル送金を可能とするソリューションを構築しました。当ソリューションは、現在カナダやフィリピンなど様々な国で利用可能なマネープラットフォームやウォレットへの送金に対応しています。Telcoinは今後、ベライゾンやAT&Tなどの大手通信事業者との提携によりネットワークを拡大し、より広範な地域に対応する送金チャネルの確立を掲げています。Telcoinはこれら主事業の他に、海外の顧客との取引を希望するeコマースサイトへのサービスの提供も行っています。
TelcoinはEthereum(イーサリアム)ブロックチェーン上で動作しており、Telcoinのパートナーをネットワーク上の検証者とするPoS(proof-of-stake)アルゴリズムを採用しています。Telcoinは現在、取引の検証より前に、その取引が現実世界に存在できるかを判断する「概念実証(PoC)」モデルに依存しています。PoCはコンセンサスアルゴリズムではありませんが、代わりに大量生産の前にブロックチェーン市場でプロジェクトをテストする目的でスタートアップ企業などによく使用されます。これにより、プロジェクトの利点と弱点を特定することが容易となります。
また、Telcoinは3つの鍵で構成されるマルチ・シグネチャ暗号(またはマルチシグ)も採用しています。本暗号では、通常鍵の1つをTelcoinに、もう1つをオペレーターに、そして3つ目をユーザーに譲渡します。Telcoinのマルチシグ・ウォレットでは、送金における取引署名の送信に、3つの暗号化された秘密鍵のうち少なくとも2つが必要になります。そのため、仮に1つの鍵が盗まれたり紛失したりしても、ウォレット内の資金は安全に保たれます。Telcoinのシステムでは、携帯電話やSIMが漏洩しても、ユーザーのウォレットや取引の安全性が確保されます。
Telcoinの使用用途
Telcoinは、複数のDeFiの機能やサービスの提供を行えるように設計されています。しかし、当プロジェクトは現状概念実証の段階にあるため、アプリ上でアクセスできる機能はほんの一部です。現在利用可能な機能とサービスは以下の通りです。
- 効率的かつ安価な送金:従来の金融機関では、一般に海外への送金時に7%の手数料が発生していました。Telcoinアプリを使って送金した場合、手数料負担は1回の取引につき2%にまで抑えられます。DeFiの台頭により若干の増額はありましたが、1000ドルを超える取引では、従来の送金ルートよりも安価で迅速な送金が可能なため、この点においてTelcoinは依然として非常に優れているといえます。Telcoin V2.3のリリース後に実装されたアクティブ送金機能では、更に受信した送金の場所を受信者・受益者が自由に選択することができるようになります。これは、パンデミック時の健康と安全を守るためにTelcoinが推進している「完全なるデジタル化とソーシャルディスタンスの確保」キャンペーンの一環とのことです。
- 複数の送金チャネル:V2.3の展開により、Telcoinは15の新しいチャネルと23のモバイルプラットフォームをネットワークに追加しました。また、フィリピンで最も人気のある金融アプリ「Gcash」との提携による、カナダーフィリピン間の送金チャネルも開設しました。送金チャネルと対応プラットフォームの増加は、ネットワークのユーザーベースを拡大し、普及を促進することが期待されています。
- ERC-20ウォレットとの互換性:TELはEthereumネットワーク上で動作するERC-20トークンであるため、あらゆるERC-20ウォレットと互換性があります。従って、TelicoinウォレットにTELを保有していれば、MetaMaskやLedgerなどの他のERC-20ウォレットにTELを転送・保管することができます。
- 物理的なキャッシュアウト:送金を受けた後、特定の物理的なキャッシュアウト地点にて現金を引き出すことができます。例えば、Gcash社との提携を行うことで、Gcash社のアカウントを介して対応するATMでお金を引き出すことが可能となります。
Telcoinモデル(出典:Conswitch.com)
Telcoinでは暗号通貨(TEL)とTelcoinアプリを連動させ、安全でスピーディな取引を提供しています。本システムにおいて、TELトークンは交換手段であり、ユーザーは法定(フィアット)通貨をTELに変換した後、対応する別のTelcoinアカウントを通じて送金を行います。このネットワーク上の送金には、Telcoinアプリのユーザー、モバイルネットワークオペレーター、Telcoinの3者が関与します。
- Telcoinアプリのユーザー:Telcoinアプリまたは互換性のある他のERC-20ウォレットを介して、自信の資産に完全にアクセスすることができます。Telcoinまたはモバイルオペレーターが取引を検証した場合にのみ、資金を送受信します。ユーザーの電話番号は、携帯電話事業者との間でユーザーの識別子として機能します。
- オペレーター(携帯キャリアやマネープラットフォーム):取引中、TelcoinにTELをユーザーのウォレットとの間で移動させるように命令します。オペレーターとネットワークは、Telcoinにその影響力を活用し、支持基盤となるユーザー層にはたらきかけることを可能にします。オペレーターとネットワークは報酬としてTELを受け取ります。トラフィックが多く、統合が進んだネットワークは、若いネットワークよりも多くのTELを受け取ります。Telcoinは、このインセンティブシステムにより、事業者は送金コストを抑えることができるとしています。
- Telcoin:ユーザーの識別子、公開鍵、および3つの秘密鍵のうちの1つを保管します。また、Telcoinユーザー同士の通信、Telcoin以外のユーザー(公認のオペレーターが付随)のための一時的なアドレスの発行など、取引に必要なバックエンド処理も行います。送金の際、Telcoinは、各取引に対して2%の手数料を請求します。この手数料は、TELから主要な暗号通貨、米ドルなどの法定通貨への変換コストに対してのものとなっています。
7月の上旬にリリースされ、新機能が導入されたTelcoin V3(出典:elcoin.medium.com)
Telcoin3.0の新要素
7月上旬にリリースされたアプリバージョン3.0では、いくつかの新機能が追加されました。それらは、既存の馴染み深いシステムを改良することで、現在のTelcoinのエコシステムを変える目的として実装されました。この新しいアップデートでは、シンガポール、オーストラリア、米国を経由する新しい送金チャネルがTelcoinネットワークに加わります。さらに、メキシコ、ネパール、タンザニアもしばらくしてからネットワークに加わる予定です。
V3で追加された新機能の全体像(出典:telcoin.medium.com)
ただし、Telcoinによると、今回のアップデートはEthereumネットワークではなく、Polygon OS上でリリースされるとのことです。PolygonはEthereum互換のネットワークを接続するための低コストのサービスプロトコルとフレームワークです。Polygonとの提携により、取引コストを2%以下に引き下げることが可能であるとしています。加えてTelcoinはPolygon OSを活用し、モバイルネットワーク事業者向けのオープンなEthereumサイドチェーンであるRivendellネットワークを立ち上げる予定です。Rivendellネットワークでは、通信事業者が銀行を介さずにブロックチェーンベースの金融サービスを加入者に提供することができるとしています。
また、V3ではTELxというTelcoinの流動性ネットワークが導入されます。これにより、TELトークンを既存のプールにステークすることで、ネットワークに流動性を提供し、より迅速な送金が可能となります。更に、TELトークンをステークしたユーザーは、流動性のマイニングにも参加し、インセンティブとして追加のTELを獲得することができるようになります。
Telcoinの起源
Telcoinは通信に特化し、シンガポールを拠点とし、ロサンゼルス、東京、ドバイにオフィスを持つ、Telcoin Pte. Ltd.によって開発されました。Telcoinは、2017年にクロード・エギネータ(Claude Eguineta)とポール・ノイナー(Paul Neuner)が共同で設立しました。エギネータはもともとCEO、ノイナーは会長を務めていましたが、2021年7月現在はノイナーのみがポストに留まっています。彼は現在、TelcoinのCEOと会長を兼任しています。
クロード・エギネータとポール・ノイナー(出典:swapspace.co)
ポール・ノイナーはTelcoinを設立する以前、12年以上に渡り通信業界に勤務していました。彼のキャリアは、電気通信分野の技術起業家としてスタートアップ企業のMobiusを設立するところから始まりました。
昨年、TelcoinはV3のリリースやその他の将来のプロジェクトに備え、新しい人材を迎え入れました。チームは2017年から大幅に成長しており、TELxネットワークの規模が大きくなるにつれ、更に大きくなることが予想されます。
TELの価格変遷
TELは現在0.025ドルで取引されています。2021年5月に記録した最高値の0.064ドルには遠く及びませんが、Telcoin V3のリリースで再び加熱することが予想されます。
過去1年半におけるTELの急成長の様子(出典:Coinmarketcap.com)
Telcoinは伸び悩んでいた時期を乗り越え、2018年のICO比で80,000%以上の上昇を見せており、ローンチ時の価格0.0013ドルとは一線を画する存在へ変貌を遂げています。
2020年3月には4,000%の値上がりをしましたが、市場が離陸し始めたのは2021年2月のことでした。そのきっかけとなったのは、Telcoinがホワイトペーパーで掲げた項目を部分的に実現したTelcoin 2.0でした。バージョン2.2、2.3のアップデート時にも同様の上昇を見せ、ユーザーは新しいアップデートによるトークン価格の更なる上昇を期待しました。
Telcoinの投資先としての特徴
Telcoinは7月1日のリリースで、トークンの展望を概説し、ロードマップで設定していた期限を迎えました。暗号通貨と電気通信の間の潜在的な架け橋として、Telcoinは自信の成長と大規模な採用に非常に熱心に取り組んできたといえるでしょう。
Telcoinは、通信事業者各社とのパートナーシップ協定により、他の暗号通貨プロジェクトが直面している3つの大きな問題、即ち信頼、リーチ、KYC(Know-Your-Customer)コンプライアンスを解決できると考えています。既存の通信事業者を通じて、事業者の信用・影響力、ユーザーベース、KYCコンプライアンスを活用し、Telcoinは世界中のユーザーにコンプライアンスに準拠した送金プラットフォームの提供を目指しています。また、TelcoinはAI認証プラットフォームのJumioと提携し、アプリユーザーの身元確認に安全性・利便性の高い認証技術を導入しています。
その一方、Telcoinにはまだ長い道のりがあります。Telcoinのウェブサイトによると、現在Telcoinの提携先は20社以下。このパートナー数の少なさが、プラットフォームの成長と普及の妨げになっています。ただし、V3へのアップデートに際し、より多くの国やプラットフォームがTelcoinアプリに統合されることが約束されており、状況の打破が期待されます。
もう1つ問題として挙げられているのは、Ethereumネットワークのスケーラビリティ問題です。ブロックチェーンの巨人とも称されるEthereumは取引量が非常に多く、取引速度の低下や手数料の高騰が頻発しており、Telcoinネットワークでの送金速度やコストに大きな影響を与えています。新しいV3アップデートが約束通りに展開された場合、取引手数料は2%以下になる可能性があり、その支払先はプラットフォーム上のリクイディティ・マイナーになることが予想されています。
また、TELはほとんどの主要な暗号通貨取引所に上場していません。取引ペアも限られており、BTCやETHなどの主要な暗号通貨としか取引できず、法定通貨とも取引できません。従って、トレーダーはTELを直接購入することはできず、TELを購入するには他の暗号通貨をウォレットに保有する必要があり、利便性に難があるといえます。
加えて、Telcoinは暗号通貨のカード支払い、プリペイド式携帯料金のオンラインチャージ機能の実装、国際援助などの目標をホワイトペーパーに記載していますが、現時点においてこれらの実現ははるか遠いものであると言わざるを得ません。提案されている機能の多くはまだ開発中であり、Telcoinチームが数々のアップデートや機能を約束通りに提供できるかどうかを見極めるには、もうしばらく様子を見る必要があるでしょう。
総評
Telcoinは、送金チャネルや事業者の追加に少し出遅れていたものの、そのトークンであるTELの価格は2020年に大きく上昇し、2021年初頭にはピークを迎えました。TELx、Polygon、SMS、その他の新機能が続々と展開されており、この上昇トレンドはしばらく続くことが予想されます。一方、実装が遅滞している新技術・プロトコル・機能の大規模適用の促進は、同コインを次に待ち構える大きなハードルとなっています。
Telcoinはサービス開始から3年目を迎え、政府や経済の様々な制約を受けながらも順調にその事業を拡大させています。2020年には、テスラ、ベライゾン、大手金融機関などが、暗号通貨を代替決済手段として取り入れることに関心を示しました。その結果、Telcoinをはじめとする暗号通貨に対する市場の需要が拡大し、それが政策に影響することで規制の緩和に発展する事態に至れば、大量導入による暗号通貨市場全体の急拡大が期待できます。
他の暗号通貨とは異なり、Telcoinはパートナー通信事業者が提供する確立されたインフラの上に構築されています。Telcoinは、パートナーの信頼、ユーザー層、KYCコンプライアンスを活用したDeFiサービスの提供も行っており、今後より多くのサービスの導入、新しい通信事業者の追加、顧客基盤の拡大を実現できれば、持続的な成長が期待できるでしょう。