アトミックスワップとは、異なるブロックチェーンの仮想通貨を分散化された直接的な方法で交換することです。ブロックチェーンが運用されている限り、ネットワークを介した資産の交換は第三者を仲介することでしか実現できませんでした。そのため、アトミックスワップの開発は仮想通貨ユーザーから非常に注目を集めています。
アトミックスワップの歴史
ビットコインの発売後、独自の仮想通貨を持つ他のブロックチェーンネットワークが形成され始め、ある資産を別の資産に交換する際の問題が浮上しました。RSKプラットフォームのチーフサイエンティストであるセルヒオ・デミアン・ラーナーは、2012年に分散型ピアツーピア取引プロトコルを最初に提唱しました。それを受けて、ティア・ノーランという別の開発者は2013年にアトミックスワップという概念を提唱しました。
長年にわたり、様々な人がこの概念をアップデートしてきましたが、最初のアトミックスワップが行われたのは2017年のことでした。同年9月、ライトコインの創設者であるチャーリー・リー氏は、ライトコイン（LTC）とDecred（DCR）のオンチェーンアトミックスワップに成功したことをツイートで発表しました。その後、LTCをBTCに交換することも可能になりました。
アトミックスワップの仕組みとは?
アトミックスワップにはオンチェーンとオフチェーンの2種類があります。オンチェーンスワップとは、2つの異なるブロックチェーンの資産が直接交換されることです。上のケースでは、チャーリー・リー氏は自身のLTCの一部をDCRと交換したことになります。
オフチェーンでは、ビットコインのライトニングネットワークで使用されているような決済層のオフチェーンチャネルを介して交換を実行します。決定的な違いは、オフチェーンチャネルではそれぞれの取引がチャネル内で行われるため、より多くの迅速な取引が可能であり、チャネルが閉じられたときにのみネットの残高がブロックチェーンに更新されるという点です。
さらに、オフチェーンチャネルはアトミックスワップで最も懸念されている点をクリアしています。オンチェーンスワップでは、両方のブロックチェーンが同じハッシュアルゴリズムを使用する必要があります。つまり、LTCとBTCの交換においてはライトニングネットワークを利用する必要があります。オフチェーンチャネルでは、マルチシグウォレットを使用することで双方が資産の送受信を行うことができるのです。
HTLC（ハッシュタイムロック契約）
オンチェーンアトミックスワップは、HTLC（Hashed Timelock Contracts）と呼ばれる別のスマートコントラクト技術を使用しています。オンチェーンアトミックスワップの仕組みを例を用いて説明しましょう。アリスとボブがトークンスワップに合意したと仮定します。アリスはボブのETH 33個と引き換えにBTC 1個を渡します。
アリスはHTLCを使って2つのハッシュロックを生成しますが、これらは一種のセキュアアドレスと考えることができます。どちらのハッシュロックもロック解除には同じ専用コードが必要です。アリスはハッシュロックを作るときに専用コードを手に入れます。ロックのうち1つは彼女の公開鍵Aに基づいており、もう1つはボブの公開鍵Bに基づいています。
アリスは自分の1BTCをボブの鍵Bに対応するハッシュロックにロックしますが、ボブはアリスが専用コードを共有するまでロックを解除できないのでBTCにアクセスできません。アリスがアドレスを共有すると、ボブは33ETHをアリスの鍵Aで解除できるハッシュロックに預け、次のステップに進むことができます。
ボブが入金すると、アリスは最初に生成された専用コードと公開鍵Aに一致する自分の秘密鍵を使って33ETHを取り出すことができます。その後、ボブは自分の秘密鍵と秘密コードを使って1BTCを取り出し、スワップが完了します。
フェアープレーを実現するタイムロックの重要性
HTLCのTimelock機能は、二者のうち一方が契約を守らなかった場合に発生します。例えば、ボブがETHを預けたところまで取引が進んだのに、その後アリスが消えてしまったとしましょう。ボブはどうやって自分のETHを取り戻すことができるでしょうか？
次に、トランザクションに時間制限があることを想像してください。アリスがハッシュロックを作成する際、それぞれに有効期限を入力する必要があります。彼女がBTCを預ける、ボブの公開鍵Bに基づくロックには1日の有効期限があります。タイムロックの条件では、アリスは自分の公開鍵Aに基づくロックに、より長い時間制限を設定する必要があり、それを1週間に設定します。
ここで、アリスが1日以内に秘密鍵を入力してボブのETHを回収しなかった、つまりボブに秘密鍵を与えなかった場合、ボブは1日が経過した後にETHを回収することができます。同様に、アリスが自分のBTCを預け、ボブがその預けたBTCと自分のETHとの照合に失敗した場合、アリスは1週間が経過した後に自分の資金を回収することができます。
ここでは、アリスが両方の資金にアクセスするのを防ぐために時間制限の長さをずらす必要があるのです。
「アトミック」という単語は、これらの条件がすべて満たされないとスワップが成立しないことを意味しています。これらの条件が満たされなければ、トランザクションは単に元の状態のままとなります。HTLC（Hash Timelocked Contract）とは、契約が秘密値のハッシュと時間条件によってロックされていることを意味しています。
アトミックスワップの重要性
仮想通貨コミュニティがアトミックスワップに大きな期待を寄せている主な理由は、異なるプラットフォーム間での資産の分散化ピアツーピア交換を可能にする可能性があるからです。UniswapやSushiSwapのような分散型の取引所は、その安全性、信頼性、非管理性もあって、大きな人気を博しています。ユーザーは常に自分の秘密鍵の所有権を持ち、スマートコントラクトがすべての取引を管理します。ただし、これらはイーサリアムベースの資産に限られます。
そのため、ブロックチェーン間での資産取引に関しては、暗号通貨のコミュニティはいまだに中央集権的な取引所に大きく依存しています。中央集権的な取引所を利用することは、その取引所を信頼することになりますが、残念ながら中央集権的な富の貯蔵庫である取引所はハッカーの標的となっています。また、取引所には手数料がかかるため場合によっては特定の規制を受けることもあります。分散型取引はブロックチェーンの原則に忠実であるため、暗号通貨コミュニティの多くの人々にとって魅力的に写っているようです。
しかし、アトミックスワップが完璧であるというわけではありません。この技術はまだ大規模に使用されておらず、全体的に見ていくつかの大きな限界があります。ひとつはプライバシーです。パブリックなブロックチェーン上では、アドレスをリンクさせたり、アトミックスワップされた資産を追跡したりすることは容易です。ゼロ知識証明などのプライバシー保護技術が開発され続けており、最終的にはプライベートなアトミックスワップが可能になるため、これが必ずしも大きな障壁になるとは限らないでしょう。
もう1つの制限は、（前述の通り）アトミックスワップの際にHTLCが機能するためには2つのブロックチェーンが同じハッシュアルゴリズムを使っている必要があるという点です。ハッシュアルゴリズムが異なるとHTLCのロックが解除されず、スワップが失敗してしまいます。
アトミックスワップの活用
アトミックスワップを使用しているプロジェクトは、まだほんの一握りしかありません。Atomic Walletはその一例です。しかし、アトミックスワップはいくつかの厳選された資産に対してのみ有効です。ほとんどの場合、Atomic Walletは取引所のパートナーにスワップを依頼しています。
昨年、ConsenSysがインキュベートしているスタートアップ、Liqualityが独自のバージョンのAtomic Swap Walletを発表しました。
まとめ
アトミックスワップは、分散型金融の分野ですでに行われている素晴らしい取り組みを基に仮想通貨の分野で多くの可能性を示しています。しかし、その真の可能性を実現するためには、まだまだ多くの開発が必要です。他の相互運用プロトコルも開発中であり、アトミックスワップの可能性が現実のものとなるかどうかはまだわかりません。
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