インターネットネイティブな空間にはよくあることですが、暗号通貨の世界もまた、インフルエンサーやオピニオンリーダーに満ちており、時には彼らが世論に多大な影響を与えることがあります。この状況にはリスクも伴い、暗号通貨界の「主役」と呼ばれる人物がその輝きを失ったり、ド・クウォン（Do Kwon）氏やサム・バンクマン＝フリード（Sam Bankman-Fried）氏のように完全な詐欺師であることが暴露されたりすることもあります。しかし、この分野で最も尊敬されるオピニオンリーダーの一人であり、コミュニティからの崇拝度では、謎に包まれ活動を停止しているサトシ・ナカモト（Satoshi Nakamoto）に次ぐとされるのが、ヴィタリック・ブテリン（Vitalik Buterin）氏です。
イーサリアムの主要な共同創設者の一人であり、初期にはプロジェクトの主任科学者を務めたヴィタリック氏は、分散型アプリケーション（dApps）やスマートコントラクトの発展において重要な役割を果たしました。彼の研究は、より複雑で信頼不要なオンチェーンのやり取りを可能にする新たなブロックチェーン技術の時代を切り開いたと評価されています。
現在、ヴィタリック氏がイーサリアムの開発やイーサリアム財団のすべての側面を直接監督しているわけではありませんが、彼の見解は暗号通貨コミュニティ内で広く流布され、議論されています。以下では、ブロックチェーン開発の未来とイーサリアムの役割についての彼の最新の考察を紹介します。
ヴィタリックのWeb3の未来に関する考え
2023年12月に公開されたブログ記事の中で、ブテリンは現在のWeb3の状況について自身の見解を述べました。この技術者は、ビットコインの初期の使命が、すべての人々にとってよりオープンで自由、かつ分散型の社会を構築することを目指していたことを振り返りつつも、現在の状況がより断片化され、利益追求型になっていると嘆きました。その主要な要因の一つとして、トランザクション手数料の高騰を挙げています。
一般的なユーザーは、手数料が1セント未満から数セントに増える程度であれば気にしないかもしれませんが、数セントから数十ドル、さらには数百ドルにまで高騰すれば、そのネットワークを見限る可能性が高いと彼は指摘しました。このような場合、そのエコシステムに残るのは、大きな利益を追求して高額な手数料を補うことができるような、いわゆる「ギャンブル志向の投資家」だけになります。最終的に、この現象はそのエコシステムに対する公衆の認識を損なう結果につながると述べています。
一方で、ヴィタリックはこうした否定的な見解を補う形で、いくつかの楽観的な展望も示しました。彼は、ネットワークのスケーラビリティと効率性を大幅に向上させたブロックチェーンロールアップの普及に勇気づけられたと述べています。また、RailwayやNocturneといった第二世代のプライバシーソリューションが台頭していることにも触れ、これらがブロックチェーンネットワーク上でのトランザクションのプライバシー向上を目指している点を評価しました。
イーサリアムのマージ後の意見
イーサリアムのマージは、2022年9月に実施されたネットワークの画期的なアップグレードであり、イーサリアムをプルーフ・オブ・ワーク（Proof-of-Work）からプルーフ・オブ・ステーク（Proof-of-Stake）へと移行させました。ブテリンは、このイベントを「多大な努力の末に達成した」「長い間待ち望まれた」マイルストーンと表現しましたが、同時にPoSシステムには依然として改善の余地があると認めています。
現在、イーサリアムではトランザクションが完全に確定するまでに約15分を要しており、これはネットワーク混雑による問題です。この課題に対処するため、ブテリンはシングルスロットファイナリティ（Single-Slot Finality）の実装を提案しました。このソリューションはトランザクションを単一のブロックスロット内で確定させることを目指しており、トランザクション時間を大幅に短縮します。この概念は彼が2024年7月に初めて提案したもので、イーサリアムの競争力とユーザー体験を大きく向上させる可能性があります。
また、ヴィタリックが注力しているもう一つの重要な課題は、ネットワークのアクセシビリティと包括性の向上です。現在、イーサリアムでバリデーターになるには32 ETHをステーキングする必要があり、これは多くの人にとって高いハードルとなっています。この障壁を下げるため、ヴィタリックは最低ステーキング要件を1 ETHに引き下げることを提案しています。この変更により、より多くのユーザーがイーサリアムのセキュリティとガバナンスに参加できるようになり、ステーキングの民主化を促進します。この取り組みは、ネットワークの分散化を強化し、日常のユーザーにもアクセスしやすいものにすることを目的としています。
ブテリンは、イーサリアムの潜在的な攻撃に対する防御を強化するために、シングルシークレットリーダー選出（Single Secret Leader Election）と呼ばれる暗号技術の導入を提案しました。この方法により、攻撃者がブロック提案者を特定して攻撃することが極めて困難になり、ネットワーク全体のセキュリティと耐久性が向上します。
また、ヴィタリックは、将来の量子コンピューティングの脅威に備える重要性を強調しました。量子技術の進歩によって現在の暗号アルゴリズムが危険にさらされる可能性があるため、このリスクを軽減するために、クォーラムの閾値を引き上げることや、イーサリアムが51%攻撃から回復する能力を向上させることを提案しています。これにより、イーサリアムは多数派攻撃にも耐えうる堅牢なネットワークを維持することが可能になるとしています。
理想的な暗号通貨ウォレット
2024年12月に公開された最新のブログ記事で、ブテリンは暗号通貨ウォレットに求める理想像を述べました。彼は、ウォレットが最終的に個人データの保管ツールへと進化し、ユーザーが自身の個人情報に対するより大きな主導権を持てるようになるべきだと考えています。このコンセプトは、M-of-Nキー共有メカニズムを使用してセキュリティを確保するもので、データへのアクセスにはあらかじめ定められた合計数（N）の中から一定数（M）のキーが必要となります。
また、分散型アプリケーション（dApp）のセキュリティ向上のために、ヴィタリックはオンチェーンコンテンツのバージョン管理への移行を構想しています。これにより、ユーザーはENS（Ethereum Name Service）を通じてdAppにアクセスし、常に検証済みで最新のバージョンのdAppとやり取りができるようになります。
さらに、将来的には、ウォレットが異なるETHレイヤー2ネットワーク間でのクロスチェーン交換や転送を自動的に実現できることを目指しています。このような機能により、イーサリアムエコシステム全体がより一体化され、ユーザー体験が向上することが期待されます。
