約135億ドル相当のビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)オプション契約が、3月27日(木)にDeribitで満期を迎えます。これは2026年第1四半期で最大規模の四半期満期であり、同日は米国証券取引委員会(SEC)が91件の暗号資産ETF申請に対する判断を予定している日でもあります。BTCオプションが約102億ドル、ETHが約33億ドルを占めています。全体のプット/コールレシオはおよそ0.85で、コール(強気)ポジションがやや多い構成ですが、両者の差は小さく、いずれかに大きく傾いている状況ではありません。
暗号資産市場で複数サイクル取引経験がある方は、大きなオプション満期前後24~48時間に特異な値動きが起こりやすいことをご存知でしょう。価格が特定の水準へ引き寄せられたり、満期直前はボラティリティが低下し、満期後に急変動が発生したりします。この現象の主要因となるのが「マックスペイン(最大苦痛点)」という概念であり、仕組みを理解することでイベント時の対応力向上につながります。
マックスペインとは?知っておくべき理由
マックスペインとは、最も多くのオプション契約が価値を失って満期を迎える価格水準を指します。すなわち、オプションの買い手が損失し、売り手(主にマーケットメイカーや機関投資家)がプレミアムを受け取る価格帯です。これは満期以降の価格予測ではなく、あくまで満期時点で最も多くのオプション保有者が損失する価格です。
例えば、1,000人のトレーダーが「BTCが3月27日までに9万ドル以上」と予想するコールオプションを購入し、他の800人が「8万ドル未満」と考えるプットオプションを買った場合、仮にBTCが8万6,000ドルで決済された場合には、ほぼすべてのコールおよび多くのプットが無価値となります。この損失が最多となる水準が、その満期のマックスペイン価格となります。
今回の3月27日満期では、DeribitのオープンインタレストデータによるとBTCのマックスペインは8万5,000〜8万6,000ドル付近です。3月25日時点でBTC現物価格は8万7,000ドル近辺で推移しており、今回は現物価格とマックスペイン水準が接近しているため、「引き寄せ効果」は控えめになる可能性があります。
オプションが現物価格に与える機械的な影響
多くの教育コンテンツでは省略されがちですが、実際の取引においてはこの仕組みが非常に重要です。
マーケットメイカーは、オプション販売時に方向リスクを回避するため、たとえば9万ドルストライクのBTCコールオプションを販売した場合、損失をヘッジする目的でスポットBTCやBTC先物を購入します(デルタヘッジ)。このヘッジは価格変動に応じて継続的に行われます。
満期が近づくと、「ガンマ」と呼ばれる感応度が増し、価格の少しの変動でもマーケットメイカーがより積極的にヘッジをする必要が生じます。このため、重いオープンインタレストのあるストライクに価格が迫ると、マーケットメイカーの売買が価格をマックスペイン方向へ引き戻す動きとなる場合があります。これは市場操作ではなく、あくまでリスク管理モデル上の自動的な調整です。
この効果は満期前の24〜48時間が最も強く現れます。それ以前は、現物買いやETFフロー、マクロイベントなどによる方向性のフローが大きく影響しますが、満期直前はガンマヘッジが主な力となります。
今回(3月27日)満期の特徴
今回の満期が特に注目される理由は以下の3点です。
- 四半期満期であること。四半期(3月・6月・9月・12月)満期は、月次や週次よりもオープンインタレストが大きく、今回の135億ドル規模は月次満期の約3倍で、ヘッジフローやマックスペイン効果も大きくなります。
- 方向性よりもボラティリティへの期待が強いこと。今週に入ってからストラドルやストラングル(どちらの方向でも大きく動くと利益が出る戦略)の取引が活発化しており、市場が明確な方向性よりも大きな動きを織り込んでいる状況です。
- SECが同日に91件のETF申請審査結果を発表予定であること。規制イベントと四半期最大のオプション満期が重なることで、ヘッジフローとイベントフローが交錯します。SECによる新規ETF承認など大きな材料が出た場合は、マックスペインの「重力」を上回る価格変動も起こり得ます。
過去の大型オプション満期後の動き
満期後の値動きには一貫した傾向が見られます。マックスペインの「重力」が消えると、抑えられていたボラティリティが解放され、元からあったトレンド方向へ急変動することが多いです。
満期日 | 名目金額 | 満期時BTC価格 | 翌7日間の値動き |
2025年3月(Q1) | 94億ドル | $69,200 | +11%($76,800) |
2025年6月(Q2) | 118億ドル | $95,500 | -8%($87,900) |
2025年9月(Q3) | 141億ドル | $118,000 | +6.7%($126,000、最高値) |
2025年12月(Q4) | 126億ドル | $98,400 | -12%($86,600) |
この傾向から、決まったパーセンテージ動くというより、四半期満期の3~7日後がその月で最も大きな変動が起きやすい期間であることが分かります。満期週に取引を控え、満期後にポジションを取ることで、より良いエントリーができてきた傾向も見られます。
今回はSEC判断と満期が同日で、ボラティリティが通常以上に高まる可能性も想定されます。
満期日当日に考慮すべきポイント
現実的なシナリオは2通りです。
1. BTCが木曜朝にかけてマックスペイン(8万5,000〜8万6,000ドル付近)へ収束する場合。 これは典型パターンで、ガンマヘッジにより価格が引き寄せられ、ボラティリティは圧縮され、Deribitの8:00 UTC(日本時間17:00)の決済後に本格的な動きが生まれやすいです。この場合、SECの判断までは様子見し、両イベント後にポジションを取るアプローチが過去の実績では有利でした。
2. 満期前に方向性の強い材料が出て値動きが発生した場合。 SEC発表やマクロ経済イベント、現物取引量の急増などがあれば、ガンマヘッジ効果を上回る動きが発生します。決済前に9万ドル超や8万2,000ドル割れで出来高を伴う動きが出れば、マックスペイン理論は無効化され、以降はそのトレンドが優先されます。
プット/コールレシオが0.85というのは市場がややコール寄りですが、極端な強気や警戒感は見られません。ストラドル・ストラングル取引とも整合しており、「大きな材料が予想されているが、方向感は分からない」という市場心理です。
[パーペチュアル契約とヘッジ手法]については、リンク先(Academy記事)は日本語版が存在しないため、パーペチュアル契約とヘッジ手法の概要は公式サイト等でご確認ください。
よくある質問
Deribitのオプションはいつ満期となりますか?
Deribitオプションは満期日に08:00 UTC(日本時間17:00)で決済されます。ガンマヘッジの動きは決済12~18時間前から強まります。
マックスペインで必ずBTCが決済されますか?
必ずしもそうではありませんが、特に四半期満期でオープンインタレストが大きい場合、一定の的中率があります。CoinDeskの調査によれば、BTCは四半期満期の約60~65%でマックスペインから5%以内の範囲で決済されています。
大きなオプション満期前にポジションを閉じるべきですか?
保有期間によります。数週~数ヶ月の長期保有なら満期の「ノイズ」は限定的ですが、デイトレやレバレッジ取引の場合は、満期直前に一時的な変動による損切りを避ける目的でポジション縮小も一案です。
オプション満期後の仮想通貨価格はどうなりますか?
ボラティリティを抑えていたヘッジプレッシャーが解消し、トレンド方向に大きく動く傾向があります。四半期満期後の3~7日間でその月最大の値動きとなるケースが多いです。最新の価格推移はPhemex BTC価格ページでご確認ください。
まとめ
今回の135億ドル規模のオプション満期は、2026年第1四半期で最大級となり、同日にSECのETF判断イベントも重なっています。マックスペイン水準(8万5,000~8万6,000ドル)はガンマヘッジによる価格の一つの目安ですが、SEC結果によってはその影響が大きく変わる場合もあります。過去の四半期満期イベントのデータでは、方向性よりも「タイミング」——すなわち満期後の3~7日間に大きな値動きが発生しやすいことが一貫した傾向です。値動きが読めない場合は、両イベントの結果を見届けてからエントリーする戦略が過去の実績では優位性を持っています。
本記事は情報提供のみを目的としており、金融・投資助言を構成するものではありません。暗号資産取引にはリスクが伴います。取引判断はご自身で十分にご検討ください。






