ブロックチェーン技術の急速な進化により、自律型ワールド という画期的な概念が誕生した。これらの自己維持型の分散型エコシステムは、インタラクティブ性と取引の観点からデジタル革命をもたらす可能性がある。ブロックチェーン技術を活用することで、自律型ワールドはかつてないレベルの没入感、所有権、そしてコミュニティ主導のイノベーションを仮想空間に提供している。
自律型ワールドの概念において重要なのは、その世界のすべての要素が統一されたルールの下で機能し、一貫したストーリーの中に存在するという考え方だ。従来のWeb2型の仮想環境では、中央集権型のサーバーや企業の方針がユーザー体験を左右していた。しかし、ブロックチェーンネットワークは、完全に自律的な世界を構築するための革新的なフレームワークを提供する。スマートコントラクトと分散型台帳を活用することで、これらの環境では透明性のあるルールベースのシステムが確立され、すべてのゲーム内インタラクションが公正に管理される。自律型ワールドへの関心が高まるにつれ、Web3のコミュニティやゲームの未来に与える影響は計り知れないものとなるだろう。
完全オンチェーンゲーム (FOCG)
自律型ワールドにおいて、ユーザーはデジタル資産の真の所有権を持つことができる。これらの資産はブロックチェーンのセキュリティと不変性によって保護され、ゲーム内経済がよりダイナミックに形成される。仮想アイテムや通貨が実際の価値を持ち、デジタル市場とリアル市場の両方で自由に取引できる環境が生まれる。このダイナミクスはゲーム開発に自然に適用されるため、完全オンチェーンゲーム (FOCG: Fully On-Chain Games) の人気が高まっている。
FOCGは、ゲームの内部ロジック、メカニズム、状態をすべてブロックチェーン上に記録することで、完全に分散化されたパーミッションレスなゲームを実現する。この仕組みにより、ゲームはコードに基づいて運営され、外部からの影響を受けることなく無期限に存在することが可能となる。FOCGの最大の利点は、ビジネスモデルの革新を促進し、元のコードの一部を変更または「フォーク」することで新しいゲーム体験を生み出せる点にある。これにより、ユーザーが生成するコンテンツを活用したマネタイズが可能となり、無限のクリエイティブな可能性と多様なゲームプレイの発展を実現する。
FOCGの利点
モッディング (Modding) - 自律型ワールドゲームの最大の利点の一つは、最適化されたモッディング (ゲーム改造) を実現できることだ。モッディングとは、スキン、パッチ、MOD (改造) などの二次的なクリエイティブコンテンツを作成し、既存のゲームプレイを強化または変更することを指す。通常、これらはゲームの開発者ではなく、一般のプレイヤー (モッダー) によって作成される。モッディングの範囲は広く、キャラクターやゲームオブジェクトのカスタマイズから、新機能を解放するDLC (ダウンロードコンテンツ) の作成まで多岐にわたる。
現在のゲーム業界では、多くの開発者がライセンス契約を通じて無許可のソフトウェア改造を制限している。しかし、完全オンチェーンゲームではこのような問題が発生しない。FOCGはオープンソースのエコシステムに従い、ゲームの状態を引き継いで自由にモッディングを行える。これにより、依存関係や法的リスクを伴うことなく、ユーザーは独自のゲームバージョンを作成できる。また、CantoのContract Secured Revenue (CSR) のような仕組みを利用することで、パーミッションレスな経済的インセンティブを提供することも可能になる。すべてのゲームロジックが透明かつアクセス可能であるため、モッディングの可能性は飛躍的に広がる。
没入感 - ゲームの楽しさの核心は没入感にある。FOCGの大きな利点は、モッディングによる予測不能なゲームプレイの楽しさを提供できることだ。さらに、すべてのゲーム要素がブロックチェーン上に記録されることで、ゲームの永続性と不変性を活かしたリアルな体験が可能となる。ゲーム内資産の所有権がプレイヤーにあることで、より強い感情的なつながりが生まれ、経済的なインセンティブも強化される。VRのようなハードウェアが視覚や聴覚による没入感を高めるのに対し、FOCGはデータの永続性、所有権、経済報酬によって 新たな没入体験を提供する。
自律型ワールドの課題
完全オンチェーンゲームの実装における課題は、特にブロックチェーン技術のスループット制約にある。ブロックチェーンは、取引の記録や処理には有用であるが、中央集権型データベースほど同時に多くのトランザクションを処理することができず、高度な同期が求められるファーストパーソン・シューター(FPS)やMOBAのようなゲームには適していない。
この問題に対処するため、ZK技術、レイヤー2、レイヤー3、AltLayerといったスケーラビリティソリューションが提案されている。これらのソリューションは、メインチェーンへの負荷を大幅に増やすことなく、トランザクション処理能力を向上させることを目的としている。しかし、こうした技術的な進展があっても、ブロックチェーンのスループットは依然として高トランザクション型ゲームにとってのボトルネックとなる。完全オンチェーンゲームは、トランザクションを非同期的に処理したり、バッチ処理できるゲームの方が適している。このようなプロジェクトでは、各トランザクションに対してリアルタイムの継続的なやり取りを必要とせず、ブロックチェーンの特性をより効果的に活用することが可能となる。例えば、1ターンごとに限られた行動を行うゲームや、プレイヤー同士の交流が常に更新される必要のないゲームの方が、実装しやすいと考えられる。
完全オンチェーンゲームのユーザーエクスペリエンスも、もう一つの重要な課題である。Steamのようなプラットフォームは豊富な機能を提供しているが、これと同様の体験をブロックチェーン上で実現するには、セッションキー、バッチトランザクション、埋め込みウォレットといった領域での改善が求められる。現時点ではインフラが不十分であるが、こうしたゲームに対応するWeb3フレームワークプロトコルの開発が進められている。
まとめると、完全オンチェーンゲームはスループット制約やスケーラビリティの問題に直面している。しかし、トランザクションを非同期的に処理したり、バッチ処理できるゲーム設計を採用することで、ブロックチェーン上での成功の可能性を高めることができる。また、開発者やユーザー向けのインフラが改善されることで、完全オンチェーンゲームの展開がより現実的になるだろう。