概要
-
バイウォール(買い壁)とは、特定の価格帯に大量の買い注文、またはそれらの買い注文の集積が存在する状態です。
-
セルウォール(売り壁)とは、特定の価格帯に大量の売り注文、またはそれらの売り注文の集積が存在する状態です。
-
バイウォールとセルウォールはいずれも、仮想通貨や株式の大部分を保有しているホエール(大口投資家)によって操作される可能性があります。
仮想通貨におけるウォールとは?
経験豊富なトレーダーの間では、バイウォール(買い壁)やセルウォール(売り壁)という用語がよく使われます。これらは、特定の価格帯に大量の買い注文もしくは売り注文が集まっているポイントとして把握できます。グラフで見ると、注文のボリュームが価格帯ごとに「壁」のような形状をなします。
バイウォールやセルウォールは、暗号資産市場や株式市場において価格変動に大きな影響を与えます。たとえばビットコインやイーサリアムといった仮想通貨の取引の場合、これらを理解することで将来の価格変動を予測したり、自分の指値注文をより適切に設定できるようになります。ただし、バイウォールやセルウォールが必ずしも市場の本当のセンチメントを反映しているとは限らず、マーケット操作の一形態である場合もあるため、見極めが重要です。
バイウォール(買い壁)とは?
ビットコインの例。緑がバイウォール、赤がセルウォール。 出典: Phemex
バイウォール(買い壁)とは、特定の価格帯において極端に多くの買い注文が積み上げられている状態を指します。その規模が大きいと、注文が約定した際にその資産の価格を押し上げる要因となります。実際には、バイウォールが形成されているだけで約定前から価格が上がる傾向も見られます。これは、その価格帯を抜けると供給が著しく減少する可能性があるためです。また、バイウォールは多くの場合、市場がその価格よりさらに高値を見込んでいることを示します。
バイウォールの見つけ方
そのため、トレーダーたちは「自分も利益に乗り遅れたくない」と考え、さらにバイウォールよりも高い価格に買い注文を入れる傾向があります。これにより価格上昇が加速します。
しかし、バイウォールが必ずしも本当の市場心理を反映していないことも重要なポイントです。小規模なバイウォールは心理的な理由から「キリの良い数字」に生じやすく、多くのトレーダーがバイウォールより0.1ドルや0.01ドル上に注文を入れる動きが見られます。
また、バイウォールは人工的に作られるケースもあります。買い注文は常に変動しており、追加・削除が随時可能なため、実際にその価格で仮想通貨を買う意思がなくても市場操作のためにバイウォールが利用される場合もあります。
セルウォール(売り壁)とは?
セルウォール(売り壁)はバイウォールの逆で、特定の価格帯に大量の売り注文が積み上げられた現象を指します。これは仮想通貨取引においても頻繁に発生します。
セルウォールが形成されると、その価格帯で一気に大量供給が発生するため需要を上回り、価格が下がりやすくなります。
セルウォールの見つけ方
仮想通貨を売りたいトレーダーは、セルウォールより高い価格に注文を入れると約定しにくいと判断し、あらかじめセルウォールよりも低い価格に指値を置きます。
こうした動きが連鎖し、多くのトレーダーがセルウォール以下で売り注文を入れることで、価格がさらに下落しやすくなります。その価格帯で強い抵抗帯が形成され、低い価格で推移しやすくなります。
バイウォール同様、セルウォールもホエール(大口投資家)によって操作されることもあります。
バイウォール・セルウォールの心理効果
バイウォールやセルウォールは市場心理に大きな影響を与え、意図的にセンチメントを変化させる目的で利用されることがあります。大きなバイウォールは市場の強気心理(ブル型)を強め、トレーダーがさらにその上で買い注文を入れることで価格上昇と「自己実現的な」サポート帯が生まれます。逆に目立つセルウォールは買い注文を控えさせ、「ここが売り時」という心理的なレジスタンスを生みます。
ホエール(大口投資家や機関投資家)はこれらの心理効果を熟知しており、たとえばバイウォールを形成して価格を吊り上げた後で撤回したり、逆にセルウォールで市場に恐怖感を与えて安値で買い集めたりします。こうしたオーダーブックの操作(スプーフィング)は、流動性の低いマーケットで特に多く見られ、今もなお暗号資産市場で頻繁に起こっています。
さらに、人間心理としてキリの良い数字に注文が集中しやすい傾向があり、これがウォールの形成の一因となっています。一部のトレーダーはこうした心理的水準よりやや上や下に注文を置く戦略をとり、競合を避けて「ミニウォール」を形成します。したがって、キリの良い数字よりも少しズレた価格帯のウォールのほうが、より意図的・戦略的な注文が含まれている場合があります。
マーケットサイクルの心理
バイウォール・セルウォールの見極め方
オーダーブック(注文板)とは?
実際の仮想通貨取引所で買い壁や売り壁を見つけるには、まずオーダーブックの読み方を理解する必要があります。
オーダーブック(注文板)は「特定の証券や金融商品の買い注文・売り注文を価格ごとに一覧表示した電子的リスト」です。オーダーブックはリアルタイムで変動し常に更新されています。未約定の買い注文・売り注文、マーケット成行注文履歴なども含まれます。
どのオーダーブックにも「ビッド(買い)」と「アスク(売り)」の項目があります。ビッドは買い注文、アスクは売り注文を意味します。
オーダーブックの例。出典:Medium
ビッドとアスクが一致した価格で取引所は売買を成立させます。こうした取引が成立することで、資産の価格が動きます。たとえば仮想通貨の需要が強く、買い手が高い価格で購入を希望する場合、徐々にビッド価格が引き上げられアスクと一致することで売買が成立し、価格が上昇していきます。
本来オーダーブックはトレーダーの判断材料を増やすものですが、市場を左右できる大口によって意図的に注文を操作されるリスクもあります。そのためオーダーブックの情報だけを鵜呑みにせず、裏で市場心理の操作が行われていないかも警戒しましょう。
デプスチャートによるウォールの見分け方
デプスチャート(深度図)は、ある仮想通貨の今現在の需給関係(様々な価格帯での注文量)をグラフで可視化したツールです。注文板の情報をより直感的に把握できます。
主な構成要素は以下の通りです:
- ビッドライン:ある価格帯における累積的な買い注文の量(需要)。チャートの左側、緑の線で表されることが多い。
- アスクライン:ある価格帯における累積的な売り注文の量(供給)。チャートの右側、赤い線で描かれる。
- X軸:横軸には通常ドル建てなどの価格が記載され、どの価格帯で注文が入っているかを示す。
- Y軸:縦軸は通常、対象仮想通貨(例:BTC)の注文数量を表します。
多くの取引所では、ビッドやアスクの線にカーソルを合わせると、その価格帯の注文量が数値で表示されます。
バイウォールやセルウォールが存在する場合、階段状の垂直に近いラインが深度チャート上に現れます。下記の図例を参照してください。
デプスチャートの読み取り例。 出典: Phemex
ホエールウォールとは?
ホエールとは?オーダーブック操作の手法
前述の通り、ホエールとは特定の仮想通貨やその他資産を大量に保有している個人または法人のことを指し、その一挙手一投足が市場価格に大きな影響を与える力を持ちます。
ビットコイン界隈のホエール例としては、サトシ・ナカモト、Geminiのウィンクルボス兄弟、テスラ社などが挙げられます。たとえばテスラが全てのBTCを売却すれば、その巨額の売りにより市場価格が急落するでしょう。
また、こうした“ホエール”の動きは仮想通貨の将来性や健全性に対する投資家全体の印象にも波及し、二次的な売りを呼ぶことがあります。
だからこそ、ウォールの多くはホエールによる人工的な操作で形成される点に警戒が必要です。ホエールは自身の資金力にものをいわせて、多数の注文を入れることでバイウォールやセルウォールを作り出し、市場心理を誘導して価格変動から利益を得ることを狙います(いわゆるホエール戦略)。
したがって、バイウォールやセルウォールの出現は、単純に「投資家の支持/不支持」と捉えるよりも、その背後にある意図や操作を見抜く観点が必要です。ウォールのみに頼るトレードは危険と言えるでしょう。
仮想通貨市場が操作されているかどうかの見極め方
バイウォール/セルウォールは本物か?
バイウォールやセルウォールが本物かどうかを見極める一つの方法は、最新の仮想通貨ニュースやSNS上の世論と照らし合わせることです。相場に大きなニュースもなく市場心理の変化が見られないにもかかわらず大きなウォールが突然登場している場合、市場操作が疑われます。
また、買い壁や売り壁、そして操作の有無を評価する上で重要になる概念が「マーケットデプス」です。
マーケットデプスを利用したウォールの評価方法
マーケットデプス(深さ)とは「様々な価格帯にどれだけ買い・売り注文が積まれているか=流動性」を示すものです。
ビッド側・アスク側の両方に注文ボリュームが分厚く存在している場合はマーケットデプスが高い(市場が厚い)と言えます。このような市場では、少数の大口注文による価格操縦や一つのウォールによる価格変動は起きにくくなり、バイウォールやセルウォールの影響力も限定的です。一方でマーケットデプスが薄い場合は、ウォールによる価格上下が発生しやすく、注意が必要です。
とはいえ最終的には、ウォールが本物か偽物かを断定する確定的な基準はありません。自分自身の経験と分析力が重要になります。
ミッドマーケット価格(デプスチャートより)(出典)
バイウォールとセルウォールの限界
バイウォールとセルウォールは貴重なインサイトをもたらしますが、過信は禁物です。ウォールは個人やアルゴリズムの気まぐれで一瞬にして消滅することもあり、その存在にベットした戦略がウォール撤去で裏目に出るリスクもあります。ストップロスなどリスク管理を徹底しましょう。
大きくて流動性の高い市場(例:BTC/USDT)では、1つのウォールが価格を動かす影響は限定的です。一方、マイナー通貨(小型アルトコイン)のような薄い市場では、ウォールが簡単に操作されることもあります。市場が成長するにつれ、かつて大きかった壁が相対的には小さな存在になることもあります。ウォールの絶対量だけでなく、通貨や市場規模に応じた文脈を常に意識してください。
重要なニュースやパンプ&ダンプ(吊り上げ後の急落)局面では、ウォールが一気に崩れることもあるため要注意です。こうした状況下では、テクニカル指標以上にトレーダーの感情が相場を動かすことが多いです。またマーケットデプスの「見えている範囲外」にさらに大きな注文が控えていることもあるので、表面だけで判断しないことも大切です。
まとめると、取引戦略においてバイウォールやセルウォールだけに頼ることは避けるべきです。それらを一つの参考材料とし、柔軟で複眼的なアプローチと、損失限定のリスク管理を徹底してください。経験を積む中で、本物の需要と操作による動きの違いを見抜けるようになるでしょう。
まとめ
暗号資産市場はハイリスク・ハイリターンが特徴です。うまくトレードできれば株式市場を上回る利益を上げることも可能ですが、その一方で予測困難で投機的な性質ゆえにマーケット操作も行われやすいという側面があります。特にマーケットデプスが薄い場合は、一部のホエールやグループの動向で相場が大きく動くため注意が必要です。テクニカル分析を身につけたり市場の最新動向を常にキャッチアップしたりすることで、値動きの激しい局面でもチャンスや最適な取引戦略を探し出せるようになるでしょう。
バイウォール・セルウォールの知見を活用して有利に取引するには、信頼性が高く高機能な取引プラットフォーム選びも重要です。Phemexはリアルタイムの戦略発動にも適した優れた取引所です。大手通貨ペアにおける豊富な流動性が確保され、大量注文(ウォール)の可視化と効率的なマーケット形成が実現可能です。直感的なオーダーブックやデプスチャートも搭載され、ウォール監視に最適なインターフェースを提供しています。スポット取引から先物取引(レバレッジ可)まで、板動きの瞬間的な対応が勝負を分けることもあるため、応答性や安定性を重視した取引環境選びが不可欠です。さらに、トレーディングボットや高度なツールも充実しており、自動戦略の構築にも役立ちます。