概要
- 未実現損益(Unrealized PnL)とは: 株式を購入し、その株価が上昇する中で保有し続けている場合、その利益は「未実現」となり、帳簿上のみ存在する利益です。
- 実現損益(Realized PnL)とは: 株式を売却した時点で、その投資による利益や損失が「実現」されます。
暗号資産に投資またはトレードする際、実現損益と未実現損益(PnL)の違いを理解することは極めて重要です。まず自身の仮想通貨取引で実際にどの程度損益が生じているかを把握するだけでなく、納税義務にも直結するためです。
ビットコインの損益(P&L)分析は、トレーダーや投資家が市場環境を理解する上で不可欠です。実現損益は、ビットコインを売却して確定した損益。一方、未実現損益(ペーパー損益)は現在保有している資産の損益で、まだ確定していません。つまり、未実現損益は現時点の時価で算出される「帳簿上」の利益や損失。これに対して、実現損益はポジションをクローズしたときに確定します。トレーダーは両者を追跡し、パフォーマンスや市場センチメントを把握します。未実現損益は保有資産の時価と取得原価との差額、実現損益は売却した時点での損益です。
実現損益と未実現損益はどこから発生するのか?
未実現損益とは?
例えばテスラ株を10株、1株500ドル(合計5,000ドル)で購入したとしましょう。その後株価が50ドル上昇すると、投資の評価額は5,500ドルとなります。この時点で株を保有し続けている限り利益は「未実現」で、帳簿上だけの利益となります。
逆に、株価が50ドル下落して評価額が4,500ドルになった場合も、売却しない限り損失は「未実現損失」です。
実現損益とは?
株式を売却した時点で、これまで投資で得た利益や損失が「実現損益」となります。
特に重要なのは、一般的に未実現損益には課税されないという点です。資産を売却して利益が確定した場合にはキャピタルゲイン(譲渡益)税が課される可能性がありますし、損失となった場合にはキャピタルロスの控除を税負担から差し引けるケースもあります。
たとえば、テスラ株を利益が出ているタイミングで売却した場合、キャピタルゲイン税が適用されるとすれば5,000ドルの元本に対して500ドルの利益部分だけに課税されます。逆に損出しを行った場合は、その損失500ドル分を他の利益から控除することが可能です。
実現損益・未実現損益の課税イメージ
ビットコインにおける実現損益・未実現損益
仮想通貨は、税制面で各国の取り扱いが異なるため株式よりも複雑です。
さらに、株式は他の株式と直接交換できないのに対し、仮想通貨であれば法定通貨でBTCを購入した後、現金に戻さずとも他の仮想通貨へトレードが可能です。
そのため、仮想通貨同士の交換も「実現損益」とみなされ、課税対象になるケースが一般的です。
いくつかの実例で解説しましょう。
長期保有(Buy & HODL)による実現利益
アリスは長期的なBuy & HODL戦略を実践する投資家です。2018年のクリプト冬に1BTCを5,000ドルの法定通貨で購入。2021年初頭、BTCの価格が58,000ドルになった時点で未実現益は53,000ドルでしたが、55,000ドルで売却し、実現利益は50,000ドルとなりました。
このシンプルなケースでは、アリスがキャピタルゲイン課税対象であれば、実現利益5万ドルが課税ベースとなります。
短期売買における実現損益
ボブは仮想通貨の短期ボラティリティを活用したトレーディングを行うトレーダーです。5,000ドルで1BTCを購入し、翌日BTCがETH建で値上がりしたため、8,000ドル相当のETHと交換。しかし、その後ETHの価格が調整局面に入り、ボブは損切りを決断し7,000ドル相当のUSDTに交換しました。
法定通貨に戻していなくても、この取引系列それぞれが「実現損益」となります。
最初の取引でBTC購入原価が5,000ドル、ETH建で8,000ドル相当と交換したので実現益は3,000ドル。この3,000ドルにキャピタルゲイン税が適用されます。
次の取引でETHを8,000ドルから7,000ドルへと売却したため、実現損失は1,000ドル。この損失はキャピタルゲイン課税対象から控除できます。
この他にも、PnL計算ガイドで損益計算方法を学べます。
ビットコインMVRVの例(出典)
主要なオンチェーンPnL指標:NUPL、MVRV、SOPR
仮想通貨アナリストは、実現/未実現損益に基づく各種指標を用いて市場動向を分析しています。
- ネット未実現損益(NUPL): NUPL =(時価総額 − 実現時価総額)÷ 時価総額。マーケット全体のネット「ペーパー利益」を測定。NUPLが1に近ければ大半の投資家が利益圏、負ならば大半が損失圏。NUPLはアダマント・キャピタルによって有名になり、値が約0.75を超えると「熱狂・過熱」、0付近では「恐怖・投げ売り」。2024年後半、ビットコインのNUPLは約0.72と強気だが過熱ではない状況。NUPLが「強欲」ゾーンに入ると、利確売りによる利益分配タイミング。NUPL急落は蓄積局面を示唆。
- MVRV(Market Value to Realized Value)比率。 MVRV = 時価総額 ÷ 実現時価総額。現在価格と全保有者の平均取得コストを比較。高MVRVは未実現利益が膨大で分配圧力も高く、1を下回ると割安・ボトム圏。Glassnodeによると、MVRVが約3.5や4を超えた時点はバブル相場のトップに一致。逆に1未満は市場底値サイン。MVRV上昇は「温い→熱い」(利確増加)、低下は未実現損失増&好機の可能性。
- 動的出力損益率(SOPR)。 SOPRは売却・移動されたコイン群の「売値/取得値」比率。SOPR = (売却時USD価値合計)÷(購入時USD価値合計)。SOPRが1超は平均的に利益売却、1未満は損失売却。GlassnodeによればSOPRの連続上昇は利益確定による強気分配、低下または1割れは損切り・投げ売り(弱気・底練り)。2024年の強気相場ではSOPRが何度も1超となり、調整局面では売り手が損失行使でSOPRが1に接近した。
他にはRealized Price/Cap(購入平均価格),アドレス利益保有数などもありますが、NUPL・MVRV・SOPRが最も代表的です。下表は各指標の解釈まとめです。
指標 | 測定項目 | 高値/安値(シグナル) |
ビットコイン未実現損益 | 現在保有資産のペーパー損益合計 | 高値:ほとんどが含み益(時価 ≫ 原価)=過熱・利確警戒。安値:多くが含み損(時価 ≲ 原価)=投げ売り・底圏サイン。 |
ビットコイン実現損益 | 売却により確定した損益 | 高 実現益:強い利確=ブル相場終盤や利益分配。高 実現損:パニック売り・ capitulation(底割れ)。 |
NUPL(ネット未実現損益) | (時価総額−実現時価総額)÷時価総額 | 高値(>0.75): 極端なネット利益(強欲・熱狂)。トップ圏で要警戒。安値(約0):ネット損失(恐怖・投げ売り)、蓄積ゾーンか。 |
MVRV比 | 時価総額÷実現時価総額 | 高値(>3.5程度):含み益多・バブルトップ警戒。安値(<1):割安・大幅損失、歴史的なボトムサイン。 |
SOPR(動的損益率) | 売却時価格÷取得価格(当日移動コイン) | 1超:利益売却(利確分配)、1未満:損切り・売り圧。 |
PnL指標を活用したトレード戦略
トレーダーやアナリストは実現/未実現損益指標を用い、ビットコイン売買のタイミング判断に活用します。主な活用法:
- 買い場の特定:未実現損失が拡大・過半数が含み損となる状況は「ビットコイン買い場」と見なされやすい。例:SOPRが1を下回る(損失での売却=過剰売り)、利益保有アドレスの割合が過去最低水準、など。MVRVが1.0付近、NUPLが0近くなる場面=極端な恐怖状態は過去の底圏で高確率でリバウンド。
- 過熱相場の警戒:逆に、PnL指標が明らかに熱狂・過剰強気サインを示せば利確する判断。NUPLが1近く、MVRVが歴史的な高水準、SOPRが連日1を大きく超過、といった場合は注意。NUPLがEuphoria帯・SOPRが高止まり継続は市場過熱シグナルであり、リスクヘッジや一部売却も検討される。2025年8月のCoinDesk分析では、ビットコインの過去最高値付近でも実現損益が伸び悩み=参加者は強気維持、急激に実現益が跳ねれば天井示唆となる。
- 長期保有者(LTH)動向監視:短期・長期保有者の利益確定傾向を区別して市場フェーズを判断。Glassnodeによると、LTHの売却加速(多数日連続のLTH売り越し表示)は上昇トレンド終盤。LTH分配増加=ファイナルラリー終盤サイン。
- 損益計算ツールやトラッカーの活用:個別トレーダーはBTC損益計算機などで売買価格・数量を入力し実際のプランニングに利用。これらのポートフォリオ管理に加え、オンチェーン指標も組み合わせれば、より市場全体動向も考慮可能。たとえばBTC利益計算で1万ドルの含み益でも、オンチェーン上で未実現益が歴史的ピーク=利確警戒材料。
- リスク管理:実現/未実現損益を監視し、例えば最大許容含み損でストップロス注文を設定したり、NUPLの閾値変化でポートフォリオをリバランスしたり。多くの参加者が含み損=逆張り買い、全体で利益なら一部利確、などリスク調整に役立つ。
実際には、ビットコイン取引戦略もこれら分析を積極的に活用しています。たとえばSOPRが1割れ&NUPLが恐怖帯に入れば反発狙いの買いプラン、MVRVがレッドゾーンなら売却も検討、といった戦略がオンチェーンアラートで自動化される場合も。
ただし、実現キャップやNUPL、MVRV、SOPRは価格そのものの予測ではなく、市場心理の「極端値・バランス崩壊時」を示唆するものです。よって、エントリー・エグジット判断の裏付け材料として使うのが一般的です。
ビットコインの需給ゾーン(出典)
実現損益・未実現損益の管理方法
仮想通貨損益・税務管理
特にアクティブなトレーダーは、取引の明細を手作業で管理するのは困難です。仮想通貨損益を正確に申告しないと、税務当局によって脱税と見なされるリスクもあります。そのため、多くのユーザーは専用の暗号資産税務ソフトやプラットフォームを用いて税務対応しています。
ポートフォリオトラッカーや仮想通貨税務ソフトは、実現/未実現損益の管理に最適なアプリの一例です。Delta、CryptoCompare、Blockfolioなどは、クリプトトレーダー向けの統合管理ツールとして人気です。他にも多種多様なクリプト市場向けソリューションがあります。
これらのツールは未実現損益も常時トラックできるため、最適な納税ポジションを構築する上でも役立ちます。特に損失確定による税負担軽減(タックスロス・ハーベスティング)も計画的に実践可能です。
ただし、税務プラットフォームはサポートする国や地域が限定されていることがあるので、自身の税務ニーズに合致したものを選びましょう。
まとめ
仮想通貨の税制・規制は国によって大きく異なります。本記事の内容はあくまで一般的な参考情報であり、税務アドバイスではありません。自身の投資環境に適用される税制を十分理解した上で、暗号資産取引に臨みましょう。
2025年8月現在、ビットコインは過去最高値圏でしたが、実現利益確定ペースは控えめで市場の自信継続を示唆しています。ビットコイン購入を検討するトレーダーは、指標が冷えるタイミング(例えばSOPRやNUPLが低下)を待ち、利益確保派は未実現益の高水準が持続しているかどうかを監視します。
総じて、実現損益・未実現損益指標はクリプト投資家の強力な武器であり、単なる価格チャート以上の市場ヘルス診断を提供します。
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