要約
- ストック・フロー(S2F) モデルは特定の資産の希少性を計測するツールであり、多くのアナリストが財務予測を行うために用いています。
- ビットコインのストック・フローモデルに関しては、商品の不足が供給を減少させ価格が上がるため、希少性とか価格は相関関係にあると言えます。
ストック・フローモデルとは?
全てのビジネスベンチャーの基本は需要と供給です。人々が求めているサービスや商品を生み出すことはそこまで難しいことではありませんが、収益性を維持することはまた別です。今日、金などの貴金属は有限であるため、人々はこれらを高価で買い求めますが、希少だからお金を出す価値があるとは限りません。
金の需要が2倍になれば、供給を2倍にするためのインフラが必要になるため、金の価格もそれに追随することになります。ストック・フロー(S2F)モデルとは資産の利用可能なストックと生産率の関係を測定するモデルです。簡単に言えば、S2Fモデルは特定の資源の希少性を測定し、アナリストが財務予測を行う際に使用されます。
ビットコインストックフローモデルとは?
当初、このモデルは貴金属やプラチナ、銀などの希少価値のある商品、その他の天然資源に適用されていました。しかし、その後適用範囲は他の多くの資産にも拡大していきます。ビットコインは希少なデジタル商品と考えられているため、ここでもS2Fモデルが有効に機能しています。このモデルによるとビットコインの希少性と価格には相関関係があり、商品が不足すると供給量が減り、価格が上昇するという仕組みになっています。
正体不明のオランダ人投資家・仮想通貨解析者が、PlanB(@100trillionUSD)というペンネームでビットコインストック・フローモデルを作成し、2019年3月23日にこのトピックに関する記事を公開しました。この記事は、ストック・フローモデルを用いてビットコインの希少性を定量化し、その価値を決定したといった内容でした。それ以来、S2Fモデルは信じられないほどの人気を博し、一部のアナリストはこのモデルを崇拝しています。
資産の希少性を示すシグナル
一般的に、ストック・フローモデルは資産の供給の限界を測定するために使用されます。ストック・フロー(S2F)比率は、商品の年間生産量に対する現在のストックを測定するために使用されます。言い換えれば、資産の希少性を定量化するものです。
このモデルを理解するには、金を例にとるのが一番わかりやすいでしょう。これまでに採掘された総量が金の「ストック」です。ワールド・ゴールド・カウンシルの発表によるとその量はおよそ19万トンに上ります。一方、毎年採掘される金の量が金の「フロー」です。これは、年間2,500〜3,200トンです。この2つの指標を用いて、金の「ストック・フロー比率」を算出することができます。
この方法によると、金のSFは62であり、現在の金のストックを生産するのに62年かかることになります。これは、すべての商品の中で最も高いストック・フロー比率であり、時間とともに変動する可能性があります。金の価格が高ければ採掘がより積極的に行われるようになり、市場への金の流入が増え、S2F比率は低下します。逆に金の価格が低いときは、採掘があまりうまくいかず生産量が減少します。金の流入が減ると、S2F比率は再び上昇します。
同様の考え方は、銀、パラジウム、プラチナといった他の貴金属にも当てはまります。銀のS2F比は22と言われています。また、パラジウムやプラチナなどの他の金属のSFは、それぞれ1.1と0.4となっています。これらの金属も非常に希少価値が高く、ほとんどが工業製品に使用されています。
S2F比率が高い商品は工業資源としてではなく、価値の保存として利用される可能性が高いといえます。言い換えれば、S2F比率が高いほどその商品の希少性が高まり、価値が高くなることを示しています。
ストック・フローモデルをビットコインに適用する
ビットコインの仕組みを理解していれば、S2Fモデルの適用が理にかなっていることも腑に落ちると思います。このモデルでは、ビットコインを「価値の保存」、つまり、金や銀のように相対的な希少性によって長期間にわたって価値を維持する商品として扱います。
この理論の提唱者によると、ビットコインには非代替性があり、希少な商品となっています。ビットコインの供給量はプロトコルレベルで定義されており、その流れは予測しやすいです。また、ビットコイン半減期があるため、21万ブロックごと(ほぼ4年ごと)に新たな供給量が半減していくことになります。さらに、現存するビットコインは限られており、残りのコインを採掘するためには大量の電力と処理能力が必要であることにも注意が必要です。
ビットコインの場合、「ストック」とは既存の埋蔵量やすでに採掘された総供給量のことを指します。「フロー」は毎年何枚の新しいコインが採掘されるかを指します。数学的には、S2Fは、採掘されたコインの総数と、毎年生産されるBTCの数の比率です。
現在、ビットコインはこれまでに採掘された約1,850万枚のコインがストックされており、毎日約900枚のコインが作成されています。これにより、ビットコインの「フロー」は、年間で約328,500BTCとなります。クラーク・ムーディーズ社のダッシュボードによると、ビットコインのS2F比率は現在56で、金と同じくらい希少価値があるとされています。2024年の半減期以降はSFが金を上回ると言われており、ストック・フロー比率ではビットコインが世界で最も希少な資産となります。
先日、ビットコインの時価総額が1兆円に達し、過去最高を記録しました。ビットコインは、世界で初めての希少価値のあるデジタル資産です。有限かつ製造コストも高く、供給量の上限は2,100万コインです。あと300万枚ほどしか採掘できないため、ビットコインは非常に希少価値の高い商品となります。
ビットコインの難易度調整は、ブロックの生成間隔を10分と仮定すると、2016ブロックごと、つまり約2週間ごとに行われます。ネットワークの計算能力が向上すると、新しいブロックがより早く見つかるようになり、難易度が上がります。マイナーは同等の報酬を得るためにより多くのリソースを費やす必要があり、効率の悪いマイナーはネットワークから退出していきます。マイナーが退出すると、ネットワークの計算能力が低下するため、アルゴリズムはそれに応じて難易度を下げます。これにより、退出したマイナーが再び採掘を開始する余裕が生まれ、ビットコインのストックとフローは長期的に見ても非常に予測しやすくなります。
ブロックがいつ採掘されるかを正確に予測することは不可能ですが、ビットコインのストックとフローは、ブロックごとでは非常に予測しやすいものです。このモデルの支持者は、統計的に見てストック・フロー比率とビットコインの市場価値の間に強い相関関係があると想定しています。初期の予測によると、ビットコインの価格は時間の経過とともに大幅に上昇するはずです。
かつてのBTCのベアであるJoe Kernen氏もストック・フローモデルを支持しています。彼は2019年7月、ストック・フローモデルを用いて、時期半減期である2020年5月までにビットコインが55000ドルに達する可能性があると予測しました。同氏はインタビューの中で、ビットコインの需要と供給の技術的なファンダメンタルズによって、価格が自身の予測まで上昇する可能性が高いと説明しています。
2020年にBTCはこれらの価格には届かなかったものの、2021年に6万ドル近くまで上昇したことで、この理論は一理あると考えられます。今年の3月初旬、ビットコインはS2Fモデルが予測した値を26%上回りました。
「光るもの全てビットコインならず」
ストック・フローモデルは興味深いコンセプトであることは間違いありませんが、商品がどのように評価されるかについての視野が狭いため、いくつかの欠点があります。S2Fモデルは、モデルで測定される希少性のみが価値を生むという考えに依存しています。そのため、ビットコインがその希少性以外に有用な用途を持たないという点において、このモデルは破綻してしまいます。
ビットコインストック・フローモデルの欠陥
1 ボラティリティ
ボラティリティもまた、資産を評価する際に考慮しなければならない重要な要素です。資産の価格変動が予測可能であれば、その結果はより正確になる可能性があります。しかし、ビットコインは変動が激しいため、このモデルを使ってもその価格の予測は100%正確ではありません。
2 予期せぬ経済の動き
予期せぬ経済の動きは、ストック・フローモデルを容易に無効化させます。例えば、2020年にコロナウィルスのパンデミックが発生し、経済活動が低迷しました。これにより、ビットコインの価値が大きく変動し、ストック・フローモデルでは、このような経済危機を予測することはできませんでした。
3 ビットコインの需要
資産の価格は、その需要と供給の両方の関数です。ストック・フローモデルの最大の欠点は、ビットコインの供給のみを考慮し、需要を完全に無視していることです。ビットコインは誕生以来需要が着実に増加しており、現在では供給を上回っています。
需要を考慮しないと、ストック・フローモデルは偏った価格予測をしてしまいます。また、このモデルのもう一つの大きな欠点は、固定の供給上限がない暗号通貨には使えないことです。
ビットコイン資産横断的ストック・フローモデル
いずれにしてもストック・フローモデルは、資産の成長を観察する最も正確な方法の1つです。限界はありますが、資産横断型モデルとして知られるPlanBのビットコイン資産横断型ストック・フロー(S2FX)モデルは、その欠点の多くを解決しています。
S2Fモデルの計算式は、月次のストック・フローと価格データに基づいた時系列順になっていますが、S2FXモデルでは時間的要素を取り除き、金や銀などの資産を導入しています。これにより、金、銀、BTCなどのあらゆる商品の評価が、ひとつの計算式で可能になります。
S2FXモデルは、元来のストック・フローモデルが提示した事実を確証し、BTCの次の局面への移行のための新たなソリューションを提供します。S2FXモデルによると、ビットコインの時価総額は、次の強気の局面では5.5兆ドルまで成長すると予想されています。これは、BTCの推定価格が288000ドルであることを意味します。より多くの資産がS2FXの方程式に追加され、使用されたデータの正確性が検証されるにつれ、ストック・フロー比率はより正確な予測のために欠かせないモデルになるでしょう。